日本の存在感

【テレビ朝日a-friends 報道ブーメラン 第457号】 転載です。
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 記者コラム
      「日本の存在感」
経済部記者/冨坂 範明
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  11月15日土曜日、金融サミット本会合当日のワシントンDC。
  日本の交渉担当者は、ホテルに配られてくる朝刊を心待ちにしていた。
  前日に麻生太郎総理大臣が、有力紙・ワシントンポストの単独インタ
  ビューを受けていたからだ。しかし、朝刊を見た担当者は、思わずた
  め息が出た。「何だ、こんな扱いか…」。

  インタビューは、新聞を裏からめくって2番目の面、風刺漫画の横に
  目立たない一段の記事で扱われていた。GDP世界2位の経済大国の
  総理大臣単独インタビュー。だが、麻生総理の写真は、紙面のどこを
  探しても載っていなかった。

  それから半日、サミットを終えた麻生総理は、海外メディアも含めた
  会見で、終始、上機嫌に振る舞った。「My interpretation, ok?(俺の翻
  訳は大丈夫か?)」。得意(?)の英語のジョークを交えながら、笑顔
  で「歴史的な会合だった」と成果をアピール。
  その後会見した中川昭一・財務金融担当大臣も、「日本がG20を主導
  した」と、日本の“存在感”を、ことさらに強調した。

  しかし私は、総理や大臣の“満足感”と、ワシントンで取材をしていて
  実感した“日本の存在感の薄さ”との間に、どうしてもギャップを感じ
  ざるをえなかった。いったいそのギャップは、どこから生じたのだろう
  か。複数の交渉担当者に聞いた、会合の内幕の様子から、その原因
  を探ってみた。

  「皆さん持ち時間は必ず守ってください」。金融サミットは、ホスト国ア
  メリカのブッシュ大統領の一言から始まった。ブッシュ大統領が最初
  に強調したのは、時間厳守のルールだという。

  本会合の実質会合時間は、3時間30分。20か国の首脳で、単純に持
  ち時間を割っても、一人あたり10分しゃべるのが精一杯だ。しかし、
  普段G7に参加できない新興国の首脳たちの多くは、持ち時間をオー
  バーして自らの主張を訴えた。

  「われわれは被害者だ。震源地でもないのに、非常な困難に陥ってい
  る」。ブラジルのルーラ大統領が、10分以上の“大演説”を行うと、負
  けじとアルゼンチンのクリスチーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大
  統領も、15分以上、スピーチを続けた。50兆円を超える大型景気対策
  を手土産にワシントンに乗り込んだ中国の胡錦濤国家主席も、「IMF
  (国際通貨基金)での発展途上国の発言力を高めるべきだ」と主張した。

  対照的に、押され気味だったのがヨーロッパの首脳たちだ。「ドル基
  軸通貨体制」に疑問を呈していたフランスのサルコジ大統領だったが、
  サミット中、その話題に触れることはなかった。G7では過半数を占め
  るヨーロッパの国(イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)だが、G20に枠
  組みを拡大しても、参加国は、4国のままで変わらない。

  発言力の低下を懸念したのだろうか、今回のサミットには、オランダと
  スペインを急遽同席させたが、ほかの国からは、「何でスペインがい
  るんだ?」という疑問の目が向けられた。

  一方、金融危機の当事者、アメリカのブッシュ大統領は、会議中も
  「どこか上の空」だったという。「20か国を集めて、宣言をまとめるまで
  が俺の仕事で、後はオバマの仕事だ」とでも思っていたのだろうか。

  そして、麻生総理は、20カ国の最後に発言した。IMFへの1000億ドル
  融資を柱とした「麻生提案」は、参加国の中で唯一具体的な金額を示
  した提案だった。会議終了後、「非常に印象的だった」と、握手を求め
  てくる首脳も、複数いたようだ。

  アフリカ唯一の参加国・南アフリカ共和国は、スピーチの中で、日本
  の援助に対して、感謝の意を表明した。総理の満足感の背景には、
  サミット本会合の場で、「麻生提案」が、予想以上に受けたことがある
  のだろう。自らの役割を「先進国と新興国の橋渡し」としていた総理に
  は、会議そのものが決裂しなかったという安心感があったのかもしれ
  ない。

  日本の交渉担当者は、「共同宣言に日本の提案が数多く受け入れら
  れた」と胸を張る。しかし、共同宣言には、1000億ドルへの謝意などは、
  一切書き込まれなかった。取材をしていた世界各国の報道陣からみ
  れば、日本が存在感を示した会議だったとは、とても思えなかったに
  違いない。

  一方の新興国側は、「最貧国を含め、より大きな発言権および代表権
  を持つべきだ」という一文を、宣言に盛り込ませることに成功した。いく
  ら「具体的だった」と胸を張ったところで、日本がカネを出すのは毎度
  のこと、そんなことより、今後の世界経済を引っ張っていく新興国のほ
  うに、世界中の関心が向いていた。

  本会合の前の集合写真で、ブッシュ大統領の隣に、ブラジルのルー
  ラ大統領と、中国の胡錦濤国家主席が陣取ったのは、その象徴的な
  光景ともいえる。

  アメリカ単独主義を主導してきたブッシュ大統領は、サミット後の会見
  を「Good Bye」という言葉と、笑顔で締めくくった。オバマ次期政権へ
  の丸投げという印象はぬぐえない。世界秩序を引っ張っていくアメリカ
  の力量に疑問符が投げかけられる中で、今回の会議は、新興国への
  パワーシフトが起こっていくことの予兆のように思われた。

  実は、日本が提案したにもかかわらず、共同宣言の中に盛り込まれ
  なかった項目が2つある。「国際収支の不均衡の是正」と「ドル基軸通
  貨体制の支援」だ。

  前者は、大幅な国際収支の黒字を続ける中国と、大幅な国際収支の
  赤字を続けるアメリカを念頭に、その不均衡の是正を求めたもの。
  後者は、その上で、現在の基軸通貨ドルの安定こそが、世界経済の
  安定のために必要だとしたものだ。

  しかし、この2つの提案は、ある一つの国からの強硬な反対にあい、
  共同宣言に盛り込まれなかったという。ある国とは、隣国・中国だ。新
  興国のリーダーとして発言権を増した上に、貿易や為替について、今
  後の中国の経済政策の足かせとなるような内容を、共同宣言から排
  除することに成功したのだ。

  金融サミット後、胡錦濤国家主席は、中国には帰国せず、中南米各
  国を歴訪し、そのままAPECへと出席した。21世紀の新秩序の中で、
  否が応でも、中国の存在は大きくなっていくだろう。

  さて、そうした中で、日本の生きる道はどこにあるのか?
  「新興国と先進国の橋渡し」だけでは、いずれ埋没してしまうのは、目
  に見えている。1929年の大恐慌のあと、当時の世界の列強は、自国
  の経済を何とか立て直そうと保護主義に走り、最終的に第二次世界
  大戦を引き起こしてしまった。その危機感があるからこそ今回、20か
  国・地域の首脳が一同に会し、合意を導き出すことができた。

  現実の世界は不安定だ。金融サミット後も、株価や為替は、世界的に
  荒っぽい値動きが続いている。GMやシティの動向からも目が離せな
  い。金融危機を食い止め、世界経済を安定した状態に戻すには、まだ
  まだ時間がかかるだろう。そして、その後に出来上がるであろう「21世
  紀の新秩序」の中で、日本はどのような立ち位置をとるべきか。
  「日本の存在感」が試されるのは、まさにこれからだ。(了)

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