【ILC】連載「ILCの実像」 読売新聞 岩手・地域版の渾身の報道・その2

読売新聞 2020年10月4日(日曜日)28面・とうほく
◆◆◆連載 ILCの実像◆◆◆
 文部科学省は9月30曰に発表した「基本構想ロードマップ」に国際リニアコライダー(ILC)計画を盛り込まず、県などが目指す北上高地地下への誘致は、早期の実現が難しくなった。地元が長年にわたって誘致活動を続けているにもかかわらず、状況がなかなか進展しないのはなぜか。ILC計画を多面的、客観的に検証し、今後の道筋を考える。

【ILCの実像 (2)】「誘致の熱 県境越えず」
 岩手県内で盛んな国際リニアコライダー(ILC)の誘致活動は、源流をたどると、衆参両院で議員を務めた岩手県選出の椎名素夫氏(1930~2007年)に行き着く。
 高エネルギー物理学研究所(茨城県、現・高エネルギー‐加速器研究機構)所長だった菅原寛孝氏(82)は1990年代前半、参院議員会館に赴いて椎名氏に陳情した。「曰本で直線型加速器の計画を進めています。曰本中で行った地盤調査の結果、北上山地は有力な候補地であるとわかりました」
 当時、米国で建設が始まった加速器に対抗して、日本でも独自の加速器を造る計画が水面下であった。実現に向けて菅原氏が頼ったのは、名古屋大の物理学科で学び、国際情勢にも精通していた椎名氏だった。「科学技術振興だけでなく、地域振興や外交にも効果絶大だ。全面的に協力する」。椎名氏の答えは、非常に前向きだった。
 こうした動きは、1991~1995年に岩手県知事を務めた工藤巌氏の耳に入り、県も「科学技術振興室」を設置、誘致活動を本格的に始めた。椎名氏も1999年に加速器の勉強会を作り、自らが理事長を務める調査研究機関「国際経済政策調査会」(束京)に事務局を置いた。
 岩手県内で誘致活動が始まってから、30年近い月日が流れた。ILC計画自体は一朝一夕には進まなかったが、誘致に向けた盛り上がりは、決してしぼんではいない。      卜
 ただ、活動を「広がり」という面でとらえると、物足りなさは否めない。ひとたび県境を南に越えると、「熱」はぐっと冷える。
 奥州市と一関市の地下が候補地となっているILCのトンネルは、当初は南端が宮城県にかかる予定だった。だが、2017年の計画変更で、長さは31キロから20キロに縮まり、同県にはかからなくなった。
 もっとも、ILCができたとしても、外国人研究者らは岩手県内ではなく仙台(宮城県)に居着くのでは、と見る向きも多い。そうなれば誘致の「うまみ」は少なくなる。宮城県内のある首長は「恩恵を受けるのは、岩手の建設業者と仙台、それにILCに電気を送る東北電力くらいでは」とみる。
 宮城県を巻き込めば、ILC誘致活動は勢いを増すかもしれない。だが、同県の産学界が熱い視線を注ぐのは、仙台市の東北大青葉山キャンパスに今年着工した「次世代放射光施設」だ。運用開始は2023年度の予定。新素材や薬品開発など幅広い分野への応用が見込まれ、研究者や外国人材の定着が期待されている。
 実際のILC誘致交渉を担う肝心要の政府も、「本気度」はいまいちだ。
 文部科学省が9月29曰に発表した2021年度予算の概算要求は、仙台の次世代放射光施設に66億1200万円を充てたのに対し、ILC関連は前年度当初予算と同額の4億8000万円だった。このうち1億6000万円は高エネルギー加速器研究機構の運営費で、残る3億2000万円も、誘致活動ではなく、加速器の低コスト化を目指す米独仏との共同研究が対象だ。「コストをもっと下げろ」というメッセージにも読み取れる。
 「自民党が政権与党である限り、誘致は厳しい」という見方もある。巨額の財政支出を伴うだけに、「最後は首相官邸の判断だ」というのが関係者に共通する見立てだ。達増知事は野党の支持を受けるだけに、永田町からは、与党とは距離があると思われる。
 椎名氏が亡くなってから13年がたった。素粒子物理学の専門書を椎名氏から手渡された飯沢匡(ただし)県議(58)(一関選挙区)は「先生の夢を成し遂げたい」と力を込めるが、「与党の理解なしには誘致できない。自民党の人脈も使い、からめ手で活動すべきだ」と注文を付ける。
 岩手県は昨年(2019年)8月、ILC推進の担当部署を「室」から「局」に格上げし、今年度当初予算に推進費として1億円以上を盛り込ん
だ。椎名氏が生きていたら、どんなアドバイスを出すだろうか。
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