【ILC】読売新聞5回連載「ILCの実像」(1~5まとめ)岩手・地域版の渾身の報道が秀逸

 映画『気候戦士〜クライメート・ウォーリアーズ〜』の上映会をリアルとオンラインでしました(DVDもあります)。
 その中には6歳の男の子もいて大勢の前に登壇し「みなさん!環境に悪いことをしている企業から買い物をしないでください〜」などと呼びかけて拍手喝采でした。小さな声を届けて大きく変えて行こう。気候正義だけでなく、社会のこと経済のこと、争いのことなんでも取り組もう。声を出すことしかできない人、ペンを取ることしかできない人、呼びかけることしかできない人や色々いるけど、出来ることをやって行こう❣️と。
 この映画のドイツ人監督カール=A・フェヒナーさんの前作「第4の革命〜エネルギー・デモクラシー」を3・11の東北で上映したいという配給元ユナイテッド・ピープル代表・関根健次さんからの依頼で2013年3月11日に世界遺産の平泉にフェヒナー監督を招き「第4の革命サミットin岩手・平泉」を主催しました。フェヒナー監督自身が、自分は国の「兵士」だったが退役して「戦士」になった。環境・社会のことで戦うと話されていました。
 ILCは、素粒子物理という学術のさらに一部の研究者たちの声に踊らされた政治家や自治体が、一度上げた手を下ろせなくなっています。
 「誘致について結論が出る」というハードルを、何度も倒しながら「次のハードル」を研究者らが示すことで「終わらない誘致活動の演出」に踊らされて、自治体は高額の予算をつけ続けるので、研究者はその旨味を吸いたくて、次のハードルを用意し続けます。
 自治体は、一部の人以外はその仕組みに気付いて手を下ろしたがっています。「本来の仕事、国民、県民、市民のための仕事をさせてくれ〜〜」という悲鳴を上げています。
一関市も勝部修市長が突っ走っていて、その予算からお金(給料が出るとか)が流れていく先だけが動いていますが、本音では「市長だけが突っ走っている」と言っています。
 それを止めるために、もう、やめましょうという意見書を「ILC誘致を考える会(一関)は、岩手県知事、宮城県知事、一関市長、一関市議会議長、文部科学大臣、副大臣などに上げているようです。

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読売新聞 2020年10月3日(土曜日)23面・地域「岩手」
◆◆◆連載 ILCの実像◆◆◆
 文部科学省は9月30曰に発表した「基本構想ロードマップ」に国際リニアコライダー(ILC)計画を盛り込まず、県などが目指す北上高地地下への誘致は、早期の実現が難しくなった。地元が長年にわたって誘致活動を続けているにもかかわらず、状況がなかなか進展しないのはなぜか。ILC計画を多面的、客観的に検証し、今後の道筋を考える。

【ILCの実像 (1)】「建設費8000憶 見合うか」
 基本構想ロードマップには、着手の優先度が高い大型研究が盛り込まれる。ILC計画が記載されなかったのは、高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくぱ市)が3月、ロー’ドマップ記載への申請を取り下げたためだ。KEKは取り下げの理由として、欧米の研究機関などと国際協力する計画の内容が変更になったためだと説明し、ILC計画自体は着実に進展しているとする。
 実際に、各国の物理学者で組織する国際将来加速器委員会(ICFA)は8月、「国際推進チーム」を設立した。KEKを拠点としながら国内外で交渉を進め、2025年にも着工し、2035年にもILCの運用を始めるとの青写真を描く。
 ただ、岩手県内ではILC計画の是非についての議論はあまり交わされていない。有識者の間では、実現性や効果などについて懐疑的な見方をする人もいる。

「是非巡る議論少なく■トリチウム 扱い不安」
 「巨額投資に見合うだけの成果が出るのだろうか」家泰弘・東大名誉教授(68)は、電話帳のように分厚い「TDR」と呼ばれる資料をめくりながら、率直に思った。TD’Rは、ILC計画を進めるアジアや欧米の国際共同研究チームが作成した技術設計報告書だ。計1155ページに英文や数式、図がびっしりと並ぶ。家氏は2013年6月から2か月かけて読み込んだ。
 ILCは素粒子物理学や高エネルギー物理学の分野に属し、物質の根源に迫る研究領域だ。半導体や超電導が専門の家氏を含め、多くの物理学者にとっては「高根の花」のような存在でもある。
 だが、TDRを読んだ結果、その科学的意義はある程度理解できたものの、突っ込みどころも散見された。
「宇宙の謎に迫る究極の研究」という壮大な触れ込みのわりには、主な研究目的が「ヒッグス粒子の精密測定」であるのが気がかりだった。画期的な新発見はあるのだろうか。仮に何十年も性能を発揮し続けて、多くのデータを蓄積したとしても、家氏は「あくまで、登山道の入り口がわかるレベルでは」と感じた。
 8000億円とされる建設費も、どこか非現実的だった。ノーベル物理学賞の受賞につながった観測装置の後継となる「ハイパーカミオカンデ計画」は722億円、世界最高水準のスーパーコンピューター「富岳」は1100億円。ILCの研究費用は各国間で分担される見込みだが、日本がホスト国になれば4000億円程度を負担する必要がある。しかし、文科省の大型研究計画の関連予算は年開300億~400億円程度しかない。

 実験で出るトリチウムの扱いにも不安があった。トリチウムは弱い放射線を出し、東京電力福島第一原発の処理水にも含まれる。ILCでは、実験で衝突しなかった電子や陽電于の捨て場となる「ビームダンプ」と呼ばれる装置にトリチウム水が発生する(実験終了時点で100兆ベクレル/100リットル)。計画に携わる有識者らは異口同音に「安全だ」と強調するが、万が一の事態が起きないという保証はない。
 分厚いTDRの中で、ビームダンプに関する記述は2ページのみ。家氏は日本学術会議(東京)の副会長だった13年から足かけ5年余りにわたり、会議内に設置されたILCに関する検討委員会の委員長を務め、ビームダンプについて研究者にしつこく聞いたが、納得できる答えは得られなかった。委員からも「環境への配慮がもっと必要だ」との声が出た。
 「誘致を支持するには至らない」。検討委は18年末に見解をまとめ、文科省も翌2019年3月に誘致の判断を先送りした。
 家氏は、海外との連携を急ぐ動きに首をかしげる。「推進派は学術界の合意を得ずに『バイパス』しようとしているのだろうか。私たちの問いに真正面から答えないのは、科学者として望ましい姿とはいえない」

※国際リニアコライダー(ILC)とは? 海抜約100mの地下トンネルに全長20キロの直線型加速器を設置する国際プロジェクト。光速近くまで加速した電子と陽電子を衝突させて宇宙初期の高エネルギー状態を作り出し、質量の源とされ「神の粒子」と呼ばれるヒッグス粒子の様子を調べる。

読売新聞 2020年10月3日(土曜日)23面・地域「岩手」
◆◆◆「ILC誘致団体 決算公告行わず」6か年分 会員用画面に掲載◆◆◆
 国際リニアコライダー(ILC)の誘致活動を展開する一般社団法人「先端加速器科学技術推進協議会(AAA)」(東京)が2014年の設立以来、法律で義務付けられた決算公告をしていなかったことがわかった。読売新聞の指摘を受け、AAAは2日にホームページで決算を公告した。県はAAAと誘致に向けたイベントを共同で開催してきており、県のチェック体制も問われそうだ。
 一般社団・財団法人法では、官報やインターネットなどで毎年、決算を公告することを義務付けている。違反した場合は100万円以下の過料が科せられる。
 AAAは約款で、インターネットなどによる「電子公告」か官報での公告を行うとしているが、2014~2019年度の6か年分の決算は、会員への資料配布や、ユーザー名とパスワードの入力が必要な会員専用のネット画面でしか公告していなかった。法務省によると、これは同法が定める「不特定多数の者が認識することができる状態」ではないという。
 AAAは2月1日現在、「正会員」の民聞企業112社と「賛助会員」の大学や研究機関など41機関からなる。正会員には重電メーカーや電力会社などが名を連ね、AAAが入会費10万円、年会費1口10万円を徴収して運営している。会長は西岡喬・三菱重工業名誉顧問、副会長は鈴木厚人・岩手県立大学長(元KEK高エネルギー加速器研究機構長)。AAA事務局は取材に対し「隠蔽(いんぺい)する意図はなかった」と話した。岩手県のILC推進局は「法律で定められた手続きをきちんとやってほしい。今後も連系していきたい」としている。
 決算公告をめぐっては、新型コロナウイルス対策の「持続化給付金制度」業務を受託した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が2016年の設立以来、一度も行っていなかったことが問題になっている。
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読売新聞 2020年10月4日(日曜日)28面・とうほく
【ILCの実像 (2)】「誘致の熱 県境越えず」
 岩手県内で盛んな国際リニアコライダー(ILC)の誘致活動は、源流をたどると、衆参両院で議員を務めた岩手県選出の椎名素夫氏(1930~2007年)に行き着く。
 高エネルギー物理学研究所(茨城県、現・高エネルギー‐加速器研究機構)所長だった菅原寛孝氏(82)は1990年代前半、参院議員会館に赴いて椎名氏に陳情した。「曰本で直線型加速器の計画を進めています。曰本中で行った地盤調査の結果、北上山地は有力な候補地であるとわかりました」
 当時、米国で建設が始まった加速器に対抗して、日本でも独自の加速器を造る計画が水面下であった。実現に向けて菅原氏が頼ったのは、名古屋大の物理学科で学び、国際情勢にも精通していた椎名氏だった。「科学技術振興だけでなく、地域振興や外交にも効果絶大だ。全面的に協力する」。椎名氏の答えは、非常に前向きだった。
 こうした動きは、1991~1995年に岩手県知事を務めた工藤巌氏の耳に入り、県も「科学技術振興室」を設置、誘致活動を本格的に始めた。椎名氏も1999年に加速器の勉強会を作り、自らが理事長を務める調査研究機関「国際経済政策調査会」(束京)に事務局を置いた。
 岩手県内で誘致活動が始まってから、30年近い月日が流れた。ILC計画自体は一朝一夕には進まなかったが、誘致に向けた盛り上がりは、決してしぼんではいない。      卜
 ただ、活動を「広がり」という面でとらえると、物足りなさは否めない。ひとたび県境を南に越えると、「熱」はぐっと冷える。
 奥州市と一関市の地下が候補地となっているILCのトンネルは、当初は南端が宮城県にかかる予定だった。だが、2017年の計画変更で、長さは31キロから20キロに縮まり、同県にはかからなくなった。
 もっとも、ILCができたとしても、外国人研究者らは岩手県内ではなく仙台(宮城県)に居着くのでは、と見る向きも多い。そうなれば誘致の「うまみ」は少なくなる。宮城県内のある首長は「恩恵を受けるのは、岩手の建設業者と仙台、それにILCに電気を送る東北電力くらいでは」とみる。
 宮城県を巻き込めば、ILC誘致活動は勢いを増すかもしれない。だが、同県の産学界が熱い視線を注ぐのは、仙台市の東北大青葉山キャンパスに今年着工した「次世代放射光施設」だ。運用開始は2023年度の予定。新素材や薬品開発など幅広い分野への応用が見込まれ、研究者や外国人材の定着が期待されている。
 実際のILC誘致交渉を担う肝心要の政府も、「本気度」はいまいちだ。
 文部科学省が9月29曰に発表した2021年度予算の概算要求は、仙台の次世代放射光施設に66億1200万円を充てたのに対し、ILC関連は前年度当初予算と同額の4億8000万円だった。このうち1億6000万円は高エネルギー加速器研究機構の運営費で、残る3億2000万円も、誘致活動ではなく、加速器の低コスト化を目指す米独仏との共同研究が対象だ。「コストをもっと下げろ」というメッセージにも読み取れる。
 「自民党が政権与党である限り、誘致は厳しい」という見方もある。巨額の財政支出を伴うだけに、「最後は首相官邸の判断だ」というのが関係者に共通する見立てだ。達増知事は野党の支持を受けるだけに、永田町からは、与党とは距離があると思われる。
 椎名氏が亡くなってから13年がたった。素粒子物理学の専門書を椎名氏から手渡された飯沢匡(ただし)県議(58)(一関選挙区)は「先生の夢を成し遂げたい」と力を込めるが、「与党の理解なしには誘致できない。自民党の人脈も使い、からめ手で活動すべきだ」と注文を付ける。
 岩手県は昨年(2019年)8月、ILC推進の担当部署を「室」から「局」に格上げし、今年度当初予算に推進費として1億円以上を盛り込ん
だ。椎名氏が生きていたら、どんなアドバイスを出すだろうか。
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読売新聞 2020年10月5日(月曜日)27面・地域「岩手」
【ILCの実像 (3)】「地域振興 シビアな目」
 「ILCと共に歩むまち」「旱期実現!! 私達も応援します」
 奥州市内を車で走ると、こうしたスローガンが記された巨大看板を目にする。
 国際リニアコライダー(ILC)ができれば、国内外の研究者が集まる国際研究都市が県内に形成され、技術革新も進むーーー。岩手県南の自治体が誘致に力を入れる根拠だ。ILCを核とした地域経済の回復を思い描く。
 熱視線の背景には、東日本大震災後の復興需要の先細りがある。県内建設業者の多くは震災後、沿岸部の防潮堤や道路工事などの公共事業を手掛けてきたが、県によると、県内の建設投資額は2015年度の1兆3466億円をピークに減少に転じている。
 こうした中、岩手県ILC推進協議会(盛岡市)は、建設からの20年間で見込める国内の経済波及効果を5兆7200億円とはじき出した。「ILCを日本に立地すれば、わが国で初めての大規模国際プロジェクトとなる。しかも一過性のイベントではなく、長期間稼働する施設となる」。そう強調するのは、高エネルギー加速器研究機構の吉岡正和名誉教授(74)だ。
 加速器は最先端の技術が凝縮される。構成する部品は多岐にわたり、優れた技術力が県内に蓄えられる可能性がある。
 「グリーンILC」と銘打ち、ILCで出た排熱を利用して温浴施設や農業施設を運営する民間主導の構想もある。ILCは岩手県内で、活性化に向けた活路の一つに位置づけられている。
 ただ、思い描いた通りには進まないのが世の常だ。
 ILCのような巨額の投資を伴う「巨大科学 ※」をめぐっては、科学者が実験装置の早期建設を目指すため、かつて政財界や国民に経済的な恩恵を誇張してきた面もある。政策研究大学院大の有本建男客員教授(72)は「財政に余裕があった時代とは違う。『ILCができれば地域
振興につながる』という単純なものではない」とくぎを刺す。
 産業界は、基礎研究の側面が強いILCのような研究より、実用化が期待できる研究に関心を寄せる傾向がある。仙台市に今年着工し、2023年度の完成を予定する「次世代放射光施設」も、その一つだ。
 1997年に供用が始まった放射光施設「スプリング8(エイト)」(兵庫県佐用町)は、新型コロナウイルス関連の創薬研究に活用されているが、仙台の施設ではスプリング8より100倍明るい光で分析できる。配分される予算額を比較すると、政府も、ILCより次世代放射光施設の実現に注力していると言わざるを得ない。
 ILCの誘致活動が「経済効果の試算」にとどまっているうちに時間は流れ、地域振興とは逆の皮肉な現象も現れ始めている。
 大船渡港(大船渡市)の一角にある岩手県有の「永浜・山口地区工業用地」 (5.3ヘクタール)は、ILCの建設が決まった場合、岩手県が建築資材や研究機器を受け入れるための「陸揚げ拠点」にする計画を立てる。震災後、ここに民間企業がバイオマス発電所を造る計画もあったが、県は2017年に分譲を中止した。岩手県港湾課は「誘致が実現するまでは分譲中止を続ける」と説明する。
 それは、当分の間はこの土地が「塩漬け」になることを意味する。用地の近くに住む男性(75)は「いつまでも更地のままではもったいない」と話す。
 ILC計画が進まないのは、青写真が良くないからではない。ましてや、誘致に携わる関係者の熱意が足りないからでもない。「『そもそも』のところで高い「ハードルを抱えているから」とはいえるかもしれない。

※巨大科学とは?
 複数の研究機関が共同で大規模な装置を開発・利用する場合に研究者らが使う言葉。「ビッグサイエンス」とも呼ぶ。素粒子や核融合、天文、宇宙などの分野で登場することが多く、最近はゲノム研究などの生命科学も含まれることがある。対象物が小さかったり遠かったりするほど、検出や観測には巨大システムが必要となる。
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読売新聞 2020年10月6日(火曜日)25面・地域「岩手」
【ILCの実像 (4)】「国際情勢 見極め必要」
 一冊の漫画本が昨年、岩手県庁職員や国際リニアコライダー(ILC)関係者の間で話題になった。
 「会長 島耕作」
 人気漫画シリーズの12巻目はILCがテーマ。経済団体トップである主人公の島が、岩手へのILC誘致に奔走する設定だ。作者の弘兼憲史さん(73)が科学者らへの取材を基に描いた。
 漫画の中で、岩手に誘致を急ぐ理由として描かれたのが、中国の急成長だ。
 現実の世界でも、中国には全長100キロに及ぶ円形の巨大加速器を建設する構想があるとされる。距離を単純に比べると、ILCの5倍だ。「曰本がILC誘致を見送れば、中国に相応の分担金を支払って加速器の実験に参加することになるかもしれない。中国に覇権を握られる」というわけだ。「だからこそ日本での建設を急がないと」という待望論につながる。
 だが、中国の科学技術政策に詳しい元文部科学審議官の林幸秀氏(72)は「中国の出方は冷静に見極めるべきだ」と話す。
 今年7月、フランス南部で巨大実験装置の本体工事が始まった。そこには中国も参加するが、「覇権」ではない。太陽が燃えるのと同じ核融合反応を起こして巨大エネルギーを生み出す「国際熱核融合実験炉(ITER=イーター)」だ。
 構想は1985年に始まった。高額な建設費が負担となり、いったんは米国が撤退するなど紆余曲折もあったが、現在は日本と欧州、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7か国・地域で約2兆5000億円の費用を分担する。文部科学省によると、建設費の分担割合は欧州が45.5%で、ほかは9.1%ずつだ。ITER候補地としてフランスと争った青森県六ヶ所村には現在、「国際核融合エネルギー研究センター」が置かれ、フランスの実験炉の次の段階となる商業発電に向けた研究が進んでいる。
 林氏によると、中国は宇宙開発や人工知能(AI)、軍事研究に力を注ぐが、ILCなどの基礎科学の研究は実用化に乏しく、関心は低い。全国人民代表大会は来年に新たな5か年計画を採択する方針だが、巨大円形加速器計画を盛り込むかは不透明だという。林氏は「加速器研究では中国は格下。日本は慌てる必要はない。計画が生半可なまま動き出して頓挫したら、元も子もない」と話す。
 国際協力の面で、「中国脅威論」よりもむしろ真剣にとらえるべきことは、米国での加速器開発の歴史だろう。
 米テキサス州で1983年、高エネルギー物理学史上で「究極」とされた加速器を作る「超伝導超大型粒子加速器(SSC) ※」の国際計画が持ち上がった。だが、10年後の1993年、米連邦議会は計画中止を決めた。既に全休の2割のトンネルが建設されていた中での前代未聞の事態で、世界の研究者に衝撃を与えた。当時の米国は深刻な財政難に苦しんでおり、資金のめどがつかなくなったのだ。
 「ILCもSSCも状況が似ている。米国の教訓を他山の石とすべきではないか」。SSC計画の一部始終を2003年に博士論文にまとめた綾部広則・早大教授(52)(科学社会学・科学技術史)が話す。
 SSCの建設地はテキサスの荒野。ILC候哺地である北上高地も広大で、電線や道路などの社会基盤(インフラ)を整備しなければならない。
 「他分野の科学者を含めた学術界の合意が十分に得られていない」という点も共通するほか、今の曰本も巨額の財政赤字を抱え、少子高齢化に伴う社会保障費や新型コロナウイルスヘの対応で膨大な財政支出を余儀なくされている。綾部教授は「巨大な研究施設が完成するかどうかは、最後はカネに尽きる。国民や科学者らの理解を得る必要がある」と話す。
 SSC計画が浮上した1983年頃は米ソ冷戦のまっただ中だった。今は米中対立が様々な分野に影響を及ぼしている。変化する国際情勢に合わせ、科学研究の伜組みも変わる。巨額の財政支出を伴う大型研究で「先見の明」を養うのは、たやすいことではない。

※超伝導超大型粒子加速器(SSC)とは?
米テキサス州で進められた素粒子実験施設の国際プロジェクト。東京23区に匹敵する面積に全長87キロメートルの円形加速器を地下に設置し、陽子ビームを衝突させる実験が計画された。当時はヒッグス粒子発見の期待も高まった。建殷費は当初予定の4倍近い約110憶ドル(約1兆3000億円)に増え、日本も約15憶ドル(約1800憶円)分の現物供与を求められた。
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読売新聞 2020年10月7日(水曜日)25面・地域「岩手」
【ILCの実像 (5)】「県民の納得 実現へ鍵」
 誘致への気勢を上げるはずの講演で、異例の「謝罪」だった。9月24日、岩手県ILC推進協議会(盛岡市・事務局:盛岡商工会議所内)が主催したウェブ講演会。国際リニアコライダー(ILC)計画に携わる森俊則・東大教授(60)が「地元の方々に取り下げた事実を公表していなかったのは間違いだった。研究者を代表しておわびする」と述べた。
 高エネルギー加速器研究機構(茨城県つくば市)は3月、ILC計画を「基本構想ロードマツプ」に盛り込むための申請を取り下げたが、事実を公表したのは約半年後の9月8曰だった。取り下げは国際協力の計画内容が変更になったためだが、岩手県内関係者から「なぜ教えてくれなかったのか」といった声が上がった。森氏の発言は、こうした声を受けたものだった。
 次の「基本構想ロードマップ」は3年後の見込み。またもや「仕切り直し」となった。
 「研究の意義が理解されていない。国際的な連携は進んでいるのに」。鈴木厚人・岩手県立大学長(74)が言う。鈴木氏は8月、関係市町などからなる新組織「束北ILC事業推進センター」(盛岡市)の代表に就き、「長すぎた春だった。東北からねじを巻きたい」と語った。ILC導入に積極的な有識者らは、建設予算について、従来の科学研究予算とは別枠で確保する方法もあると指摘する。
 誘致活動では、岩手県民への浸透も大事になる。最近はILCにちなんだご当地キャラクターが登場し、「ソフト路線」が目立つ。
 奥州市は2017年、ILCで測定するヒッグス粒子をモチーフにした着ぐるみ「おうしゅうヒッグスくん」を制作。小学校やイベントでアピールしている。
 一関市は、束京都内の制作会社が素粒子を擬人化して創作した「Particle Boys(パーティクルポーイズ)~素粒子男子~」を起用。等身大パネルをJR一ノ関駅の新幹線改札内に置き、「若年層に受けている」(一関市職員)という。
 ただ、こうしたPR方法に違和感を感じる向きもある。海外での加速器施設の研究プロジェクトを主導する理化学研究所の斎藤武彦主任研究晨(49)は「科学者になろうと思う子は、着ぐるみやキャラクターを見てではなく、科学の本質的な魅力を感じて志すはずだ」と指摘する。
 ILC誘致の議論が盛んな県内だが、現状では岩手県民に浸透しているとは言い難い。岩手県が6月に発表した県民意識調査の結果によると、「ILCや新たな産業振興への取り組み」は、県の施策57項目の中で、重要度で下から2番目、ニーズ度でも下から5番目だった。
 こうした中、岩手県は、子供たちを対象にILCの教育を展開するようになった。
 県盛岡広域振興局は2019年度から「ILC解説普及員」を講師として学校に派遣している。解説普及員の岩手大職員・藤崎聡美さん(48)は、出前授業でキャラクターの露出を控えめにする一方、社会人になった時にILCを通じて地元にどんな貢献ができるのかを考えてもらうようにしている。「実験が始まると、通訳や飲食、観光など幅広い仕事が生まれる。子供たちが古里の町に戻るきっかけになるはず」と語る。
 ILCに匹敵する巨大国際プロジェクトである国際熱核融合実験炉(ITER=イーター)も、「夢のまた夢」と擲兪されたが、スタートにこぎ着けた。温室効果ガスや高レベル放射性廃棄物を出さない「夢の発電手段」としての大きな期待が、その背景にある。
 「サイエンス・フォー・ピース(平和のための科学)」ーーー。ヒッグス粒于を発見した欧州合同原子核研究機関(CERN=セルン)が掲げる理念だ。ILC計画も、平和利用を目的に各国間の協力で進んでいくだろう。本体や関連施設が岩手県内にできて国際交流の拠点となる日が来るかもしれないし、実を結ぱないかもしれない。
 ただ、誘致活動が今後どう展開されようとも、実現に向けた「鍵」は不変だろう。巨額投資とそれに見合う成果を、県民と国民、世論が理解し、納得するかどうか、だ。
 (おわり。この連載は、中根圭一が担当しました)
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