【ILC】宇宙の根源理論 冷めた熱狂

宇宙の根源理論 冷めた熱狂
読売新聞 2021年1月17日(日曜日)【国際】ワールドビュー
・・・「計画は中途半端だ」理化学研究所 初田哲男博士・・・
・・・国際リニアコライダー(ILC)計画も立ち止まって見直すのも悪くない。IMG_20210122_0002_0000.jpg
 宇宙の謎に迫る最先端研究が岐路に立っている。
 謎を根本から解き明かす最有力理論とされてきた「超対称性理論」について、米シカゴ大教授ダン・フーパー氏は昨年の講演で「10年前の熱狂はない。正しいかどうか怪しい」と行き詰まりを認めた。
 理論のカギを握るのが、物質を構成する最小単位である素粒子だ。既知の17種類に加え、同じ数のペアがあるとされ、超対称性粒子と呼ばれる。スイスにある欧州の研究機関セルンの大型加速器は、2012年に17番目の素粒子ヒッグス粒子を見つけてから、超対称性粒子の検出に主眼を置いてきた。
 ところが現在に至るまで、超対称性粒子が一つも見つからない。これが理論を揺るがせている。
 欧州は、現行の数倍の規模の次世代器を50年ごろに建造し、理論の完成を目指している。こちらも新粒子が出てこないのではもくろみが崩れてしまう。
 最先端の理論を巡る潮流の変化は、日本にも及ぶ。東北の北上高地で、セルンの後継となる巨大加速器を誘致する構想「国際リニアコライダー(ILC)計画」を、米欧の研究者と共に進めているからだ。
 全長20キロメートルのトンネルを掘って直線状の加速器を設置する。建設費は8000億円と見こまれる。
 国際リニアコライダー(ILC)では、光速近くまで加速した電子と陽電子を正面衝突させ、宇宙誕生のビッグバンの超高温を再現する。超対称性粒子そのものが作られることはないが、ヒッグス粒子が多数生まれ、間接的な情報が得られるという。
 地域振興に結びつくとして、地元の期待は大きい。米政府も「中国に先を越されてはいけない」と、はっぱをかけてくる。
 巨大プロジェクトの実現には、政府の大型研究投資の基礎となるロードマップヘの採択が前提となる。取りまとめ役の高エネルギー加速器研究機構(KEK:茨城県つくば市)は昨年、ロードマップヘの採択をいったん申請したものの、「国際的な協力体制の再編成」を理由に取り下げてしまった。
 国際リニアコライダー(ILC)の青写真作りが始まったのは、超対称性理論がブームだった15年前だ。情勢が様変わりする中、理化学研究所の初田哲男博士のように「計画は中途半端だ」と心配する研究者が多いのだろう。
 重力波を使えば、138億年前の本物のビッグバンを直接観測することもできる。重力波は米チームが5年前(2015年)に初めて直接観測し、素粒子研究の新しい手段として加わった。
 最先端の研究は、重力波観測を優先する選択肢もある。潮流の変化を見逃すことのないよう、国際リニアコライダー(ILC)計画も立ち止まって見直すのも悪くない。
 編集委員 石黒穣


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作 業 部 会 報 告
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/038/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/07/02/1359433_02_1.pdf
https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/08/05/1360596_2.pdf
○ 素粒子原子核物理作業部会報告(平成27年3月)
○ 技術設計報告書(TDR)検証作業部会報告(平成27年3月)

国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議
素粒子原子核物理作業部会報告(平成27年3月)
当作業部会は、国際リニアコライダー(ILC)計画の目指す研究内容と、その内容が巨額の投資に見合った科学的意義を有するかについて検証を行い、その意義を整理するため、平成 26 年 6 月以降、8 回に渡り議論を行った。この議論においては、主に以下の3つの観点を中心に議論を行った。これらの議論の結果について、主要事項を以下に示す。
(1)素粒子原子核物理学分野における将来の目標と ILC の位置付け
(2)上記のうち、既存加速器(大型陽子加速器(LHC)等)で見通せる成果
(3)上記のうち、ILC が目指す成果及びその際の性能
なお、当作業部会では、ILC について衝突エネルギー500GeV(GeV=10 億電子ボルト1)の電子・陽電子衝突型加速器と想定して議論を行い、必要に応じてエネルギーアップグレードされた ILC についても議論を行った。
1.科学的意義(将来の素粒子物理学(高エネルギー分野)の目標に対しての ILC の役割)
○素粒子物理学の歴史と現状
素粒子物理学は物質の内部構造とそこに働く根源的な力の法則を研究する学問である。その発展により、近年では宇宙の誕生や進化などの理解においても素粒子物理学の重要性が認識されるようになった。
○素粒子物理学は 20 世紀の後半以降加速器の進歩と共に新たな粒子や現象が発見され、それを手がかりに理論的研究と更なる実験を重ねることで大きな発展を遂げた。特に1970 年代以降、陽子・(反)陽子衝突型加速器と電子・陽電子衝突型加速器によって多くの発見と測定がなされてきた。20 世紀中には物質を構成するクォークとレプトン及びそれらの間に働く強い力、弱い力、電磁力を媒介するゲージ粒子からなる素粒子の標準理論の枠組みの正しさはほぼ確固たるものとなり、そして 2012 年には素粒子に質量を与えるヒッグス粒子が発見されて標準理論の枠組みを構成する全ての要素が実験的に確認された。
○ヒッグス粒子は今まで知られていたクォークやレプトン、及び相互作用を媒介するゲージ粒子とは全く違う粒子であり、今後ヒッグス粒子の全容を解明していく必要がある。それと共に、宇宙の暗黒物質の存在や様々な理論的研究から、標準理論が素粒子の世界を記述する究極の理論でないことも広く認識されるようになった。従って現在の素粒子物理学の大きな流れは標準理論を超える物理がどのようなものであるかを探ることで1 電子ボルト(eV):エネルギーの単位。電子ひとつが 1 ボルトの電圧で加速されたときに得るエネルギーの量。1eV=1.6×10-19J18ある。
○素粒子物理学における究極の目標は、素粒子・宇宙を支配する自然法則の統一的理解である。この理解に至るまでには、力の統一や、超対称性、あるいはこれら以外の新たな物理について実験的に研究していくことが重要と考えられている。
○特に、電弱相互作用のエネルギースケール(数百 GeV)と、これより 10 桁以上高いと推定されていて、素粒子間に働く強い力、弱い力、電磁力が統一されると期待される大統一のエネルギースケール、あるいは重力が重要になるプランクスケールという非常に大きなエネルギースケールとの違いを無理なく理解するには TeV(TeV=1 兆電子ボルト)のエネルギースケールに超対称性などの新たな物理が必要であると広く認識されている。また暗黒物質もこの新たな物理と関連した粒子である可能性が広く議論されている。これらを研究するために、エネルギーフロンティア加速器 LHC により超対称性粒子などを直接観測する方法が取り組まれてきている※。それと共に、大強度を目指した加速器である電子・陽電子衝突型加速器(KEKB)や大強度陽子加速器施設(J-PARC)などでの間接的な探索や非加速器実験を含む様々な研究が進められている。
○現在 LHC において探索が進められている新しい物理現象が発見されるか否かにかかわらず、電子・陽電子衝突型加速器の次世代計画として提案されている ILC は、その特徴であるバックグラウンドの少ないクリーンな実験環境において LHC での実験の限界を超える研究能力のある実験施設であり、精密測定や新粒子・新現象の探索により新しい物理の全容解明に貢献し得る点で重要である。
○ILC の目指す研究は超対称性など、TeV のエネルギースケールにあると予想される素粒子の標準理論を超える新物理の探索と解明で、非常に重要である。その内容は以下のとおりである。
(1)ヒッグス粒子やトップクォークの詳細研究によるヒッグス機構の全容解明で標準理論を超える物理を探索
(2)超対称性粒子などの新物理の探索、及び発見された場合その詳細研究22
LHC で新たな物理が発見される場合、それが ILC のエネルギー範囲や測定精度でどの程度まで解明し得るか等の点にも留意が必要。
ルミノシティアップグレードデータ蓄積量300fb-1(予定)データ蓄積量3000fb-1を目指すⅡ期実験(13
※TeV) Ⅲ期実験(14TeV) Ⅳ期実験(HL-LHC)
※LHCの実験スケジュール
注 fb-1
(インバースフェムトバーン):衝突量を表す単位。現状の LHC では 1fb-1は約 70 兆回の衝突に匹敵する。
※14TeV での実験も追求19
(3)その他(暗黒物質や余剰次元)
2.必要経費(技術設計報告書(TDR)検証作業部会報告から転載)
○加速器施設建設費総計:1 兆 1 千億円程度(労務費を含む、その他付随経費や不定性相当経費は除く)
・本体建設費 9,907 億円(TDR 記載項目)
(内訳)
土木建築 1,600 億円(工事費)
加速器本体 6,709 億円(超伝導加速空洞・設備費等)
労務費 1,598 億円(=22,892 千人時相当)
・測定器関係経費 1,005 億円(TDR 記載項目)
(内訳)
測定器本体 766 億円
労務費 239 億円(=3,651 千人時相当)
○年間運転経費 491 億円(TDR 記載項目)
(内訳)
光熱水料、保守 390 億円
労務費 101 億円(=850 人/年相当)
○TDR では国際協力によるコストシェアリングを行うこととされている。
3.過去の加速器整備での建設費の実例
①国内の実例
・過去に整備された加速器関連の施設において、最も経費を要した施設でも 1,500 億円程度であった。
※J-PARC 1,524 億円
この他、大型放射光施設(SPring-8) 1,100 億円
KEKB 378 億円(トンネル工事は除く) 等
②海外の実例
○大型陽子加速器(LHC)
・現時点での世界最大の加速器:欧州合同原子核研究機関(CERN)の LHC(CERN での既存加速器に追加し、大型電子・陽電子衝突型加速器(LEP)のトンネルを利用する形で設置。LHC のために追加で必要となった費用は、加速器および実験装置の建設費として約 5,000 億円、ただし人件費は除く)。
・LHC は欧州の国際機関である CERN が整備。なお、整備の際に、日本からは 138.5 億円を拠出。日本以外では、米国、ロシア、カナダ、インド等が協力。8,309 億円
20
・LHC は建設開始時に過去の加速器実験(欧州・LEP 等)における実験データと標準理論(あるいは超対称性理論)に基づき、ヒッグス粒子発見能力について見通しをもって実験が開始された。ただし実験開始前に他の実験で発見される可能性はあった。また LHC のヒッグス粒子探索の結果が(発見のあるなしにかかわらず)標準理論の根幹に大きな影響を与えると考えられていた。

○超伝導超大型衝突型加速器(SSC)
・LHC より少し前に米国で計画された大型加速器施設として、SSC がある。
・本計画は、米国の国家事業として開始されたが、その後中止に追い込まれた。部会において聴取したところでは、様々な要因がある中で、以下のような点を挙げる意見があった。
A) 米国内の予算が緊縮財政に転換されたこと
B) 国際プロジェクトでなかったこと
C) 設計変更等による経費の増加(45 億ドル→110 億ドル)
D) SSC の波及効果が誇張されており、反発を招いたこと
E) 建設地の選定が後に様々な問題を生じさせたこと


4.技術設計報告書(TDR)で示された ILC で実施できる研究
○ヒッグス粒子が発見された今、素粒子物理学の次なる目標は「標準理論を超える新たな現象」の発見。ILC では以下の研究が実施できる。
・ヒッグス粒子の崩壊分岐比の詳細測定や3点結合の測定等を通して真空の相転移の起源をはじめとするヒッグス粒子・ヒッグス機構の全容解明やトップクォークも含めた精密測定から標準理論を超える物理を探索
・エネルギーフロンティアの加速器として、「超対称性粒子」等の新粒子探索も重要な課題(ただし、強い相互作用をする超対称性粒子の探索はエネルギー増強後の LHC でも実施予定であり、発見が期待されるのは主に 2015~17 年頃)
・暗黒物質や、余剰次元等の探索
5.投資に見合うかの判断の留意点
○日本学術会議も指摘している ILC での研究の最適な戦略の見通しについては、ILC で期待される成果を最大化する観点から、2015 年から始まる LHC の衝突エネルギー13TeV の実験(13 TeV LHC)における強い相互作用をする超対称性粒子等の探索結果を踏まえて明確化すべき。
○4.に掲げられた実験内容について、最適な戦略見通しに沿った研究計画を遂行するにあたり、現在、ILC の設計書として示されている技術設計報告書(TDR)で規定されている性能で過不足がないか検証すべき。
21
○ILCは巨額の経費を要する国際計画であり、国際協力を前提に立案がなされてきたこと、また我が国の財政状況も鑑みると我が国がホスト国として負担をする範囲には限度があることから、ILC にかかる経費について、国際協力による応分の経費分担を前提とすべき。
○ILC 計画の投資額の規模に鑑みると、実施の可否を判断する際には、他の学問分野コミュニティの理解・協力を得ることが重要であり、計画推進の判断がなされた場合は、建設期のみならず運用期においても大型科学プロジェクトを含む他の学問分野の研究に影響を及ぼすことがないような特別な予算措置が望まれる。
○ILC 計画実施について、時宜を得た判断が行われない場合には、国際的な求心力が失われる可能性があるため、不必要な判断の遅延を招かないように、体制の整備や事前の準備が重要。
○計画実施の可否は、上記の留意点を踏まえて判断すべきである。
6.13 TeV LHC の成果を踏まえた ILC 等のシナリオ
13 TeV LHC での成果を踏まえたシナリオに応じて ILC 計画で実施する場合の今後の戦略方針は以下のとおり。
(1)13 TeV LHC で新粒子(強い相互作用をする超対称性粒子の可能性がある粒子)が発見された場合
方針:ILC により、ヒッグス粒子やトップクォークの精密測定から、新粒子の背後にある物理現象を解明する。LHC において、強い相互作用をする新粒子が割合軽い3場合や 250GeV 以下の質量をもつ新粒子に崩壊しているらしいとの示唆がある場合には、ILC においてこの新粒子を発見し、詳細解明を行うことが期待される。そうでない場合は、エネルギーアップグレードがゆくゆくは必要となる。
効果:超対称性の存在の証明、あるいは複合ヒッグス粒子の確認などにつながり、大きな発見や研究の進展が期待される。ILCで新粒子が発見された場合にも、大きな研究の進展が期待される。
(2)上記以外の新現象(暗黒物質や余剰次元)と思われる事象の兆候が観測(発見)された場合
方針:LHC で発見された新現象の性質を ILC で精査し、ヒッグス粒子やトップクォークの精密測定とあわせて、標準理論を超える物理を研究する。
効果:暗黒物質の初観測や余剰次元の探索の足がかりの観測により、大きな発見と
3
ILC で発見される可能性がある最も軽い新粒子の質量は、典型的な超対称性理論では強い相互作用をする超対称性粒子の概ね 1/7 以下とされている。ただし、理論的には不定性が大きいという意見もあることに留意が必要。
22
研究の進展が期待される。
(3)13 TeV LHC で新粒子や新現象が観測されない場合
方針:ヒッグス粒子やトップクォークの精密測定から標準理論を超える物理(超対称性理論、複合ヒッグス理論等)を探索する。また ILC は LHC では検出が困難なタイプの新粒子にも感度があるため、これらの新粒子の探索も行う。LHCで未発見の原因を精査し、ILC で発見できる新粒子を探索するとともに、将来のエネルギーアップグレードの必要性を検討する。
効果:標準理論からのズレが観測された場合は、そのズレの大きさとパターンから、標準理論を超える物理の方向性と関連する新物理のエネルギースケールが明らかになる。新粒子が発見された場合にも、大きな研究の進展が期待される。

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