【ILC】東北で誘致進める「国際リニアコライダー」展望と課題(早稲田応用物理会 読売新聞盛岡支局 記者 中根圭一)

早稲田応用物理会 早稲田物理会 会報 第32号 2021年3月
特別寄稿
東北で誘致進める「国際リニアコライダー」展望と課題
読売新聞盛岡支局 記者 中根 圭一(応用物理54回生)
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早稲田応用物理会 早稲田物理会 会報 第32号 2021年3月

特別寄稿
東北で誘致進める「国際リニアコライダー」展望と課題
読売新聞盛岡支局 記者 中根 圭一(応物54回生)

 東北で今、誘致を進める素粒子物理学の国際プロジェクトがある。国際リニアコライダー(International Linear Collider=ILC)である。私はILC建設候補地とされる宮城、岩手両県に途中の東京転勤を挟みながら、計7年勤務してきた。東北に暮らす記者の視点から、地方自治体がILCを呼び込む背景や、誘致の展望、課題について紹介したい。
 ILCは標高100mのトンネルに20kmの直線型加速器を設置し、宇宙創生の謎を解明するプロジェクトである。電子と陽電子を光速に近い速さで衝突させて高いエネルギ一状態を作リ、未知の物貿や働きなどを調べる。
 ILCが東北で話題に上るようになったのは、東日本大震災直後の2011年6月だった。岩手県は震災復興の起爆剤にしようと、TOHOKU国際科学技術研究特区構想を掲げ、ILC誘致を盛り込んだ。建設や稼働に伴う雇用創出や超電導、半導体、電磁石など関連産業の集積に期待してのことだ。経済効果は5・7兆円という。建設候補地は、花崗岩の固い地盤が形成される岩手、宮城両県の北上高地。漫画家・弘兼憲史さんが2019年に連載「会長 島耕作」で!LC計画を取り上げ、関係者の注目を集めた。
 ただ、日本政府は国内誘致の判断を先送りしている。日本学術会議も2020年に策定したマスタープランで重点大型研究計に含めなかった。
 なぜか。一つは、莫大な費用である。建設費は8000億円程度、維持管理費も含めれば、1兆円を超える。世界各国で費用を分担しても、日本の負担は約4000億円。ILC誘致に携わる研究者は「建設費を建設期間の10年間にならせば、1年あたり400億円程度で済む」と主張する。しかし、新型コロナウイルス対策で前代末聞の財政支出が行われるなか、ILCへの国費投人について理解を得るのが難しい時世である。英仏独3か国の担当省庁も2020年に、経費分担に否定的な立場を示した。
 素粒子物理学以タトの研究者にはILCによって自分たちの研究予算が削られるのでは、との不安がある。ILC計画に関わる研究者は「既存の学術関連予算とは別のILC予算枠を設ける」と提案するが、別枠であっても国民の血税であることに変わリない。2003年、当時の塩川正十郎財務相は「母屋でおかゆなのに、離れはすき焼きを食べている」と述べ、歳出削減に努める一般会計を「母屋」に、潤沢な財政投融資などを活用した特別会計(別枠)を「離れ」に例えて批判した。それ以来、別枠を設けるには相当な理由が必要になった。
 ちなみに、岩手県は、野党共闘を呼びかける小沢一郎衆院議員のお膝元でもある。過去に、自民党・麻生太郎財務相の地元である福岡県などとILC誘致合戦を繰リ広げただけに、「麻生氏が財務相在任中は、ILC誘致に予算を充ててくれないのでは」(東北経済界関係者)との声も聞かれる。
 米国の加速器開発の“黒歴史”を他山の石とすべきだとの意見もある。米国で1990年代、「超電導超大型粒子加速器(SSC)」計画が財政難のため、頓挫した経緯がある。建設費は最終的に110億ドル(約1・3兆円)に積み上がっていた。
 ILC誘致へ世論の関心が高まれば、政府が動くかもしれない。しかし岩手県内でも世論の盛り上がりは乏しい。県が2020年に発表した県民意識調査の結果によると、「ILCや新たな産業振興への取り組み」は、県の施策57項目の中で、「重要度」別で下から2番目だった。被災地の復興事業が減る中、ILC建設を「次なる公共事業」として期待する業者はいる。ただ、ILCがもたらす学術的な成果への関心は今ひとつ、と感じる。
 岩手県は県民への浸透を目指し、小中学校で「ILC出前授業」を開いている。「ILCはみんなが活躍できる場です」と児童生徒に伝えているが、科学への興昧関心を引き出すというよリ、特定事業の応援団育成になっている感がある。最近は「ソフト路線」も目立ち、一部の市はILCで生み出されるヒッグス粒子をモチーフにした着ぐるみやキャラクターでPRに努めている。市職員は「若年層に好評」と受け止めるが、こうしたPR方法に疑問を感じる人は少なくない。
 地元に対する説明不足も気になる。高エネルギー加速器研究機構(KEK)は2020年3月、文部科学省に申請していた「ロードマップ」の搭載審査からILC計画を取リ下げた。計画を取リ巻く状況が変わったためだが、取り下げた事実を半年近く候補地の地元に公表していなかった。その後、KEKは公表の遅れを陳謝したが、地元にはしこリが残ったままだ。
 ―方、欧米では日本の誘致を支持する動きが目立つ。欧州合同原子核研究所(CERN)は2020年6月に公表した次期欧州素粒子物理戦略で、日本でILCがタイムリーに実現すれば、「協働を望む」と記した。米国務省も日本での建設に関心を示している。岩手県関係者は「欧米の支持や自治体の協力をテコに誘致を進める。『大坂冬の陣』のように”外堀”から攻める戦術だ」と話す。
 2020年8月には、KEKを拠点とする「国際推進チーム」が発足した。2022年頃に「ILC準備研究所」を設立、2026年頃に建設に着手し、2035年頃にILCの運用を始めるとの青写真を描く。
 今年2021年のトピックは、ILC準備研究所の予算が夏の政府概算要求に盛り込まれるかどうかである。政府予算に盛り込まれなければ、建設の工程は遅れ、欧米の研究者コミュニティーが失望する可能性も否定できない。
 岩手県は、宇宙を舞台にした「銀河鉄道の夜」の作者・宮沢賢治(1896~1933年)や物理学者の田中舘愛橘(1856~1952年)らを輩出しておリ、宇宙や物理に関心を寄せる県民性はある。
 東京五輪は東京都民だけでなく、国民的な関心の高さが誘致活動を後押しした。ILCでも,機運が岩手県で高まり、全国へ波及するのか。誘致実現の「鍵」に今後も注目したい。
(中根圭一 naka6124@yomiuri.com)

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 ILCはすでに終わったものという認識が、東京の関係者では一般的と思われます。なおこれが実現される可能性が残っているのか.あるとすればどういうルートでなのか。
 もし終わったものを、終わらなかったことにしているとするなら、その筋で問題化していくことが必要だと思います。そもそも無理なものを強引に扉をこじ開けようとした。無理なものを無理強いしようとすることに対し、メディアは糾弾すべきものと思います。
 今回逆に地元メディアがこの無理強いの側についてしまったため、岩手県民にはまだこの間の本当に起きていたことを知らない状態にあると思います。このことをどう問題化できるのか。
 もしまだ実現できる筋があるのなら、それはこれまでの文部科学行政を破壊するものになると思います。このことを文部科学省はかなり強く(おそらく怒りを持って)注視しているようです。萩生田大臣も、この点で警戒しつつ言葉を選んでILCを否定していると思います。
 しかし、もし実現する筋があるのなら、そうしたことはやってはいけないことですので、その筋についてはよく実態を明らかにし、事前に阻止する必要があると思います。これはILCと一関市の問題ではなく、国民と科学、政治の関係の問題です。

 ILC誘致の懸念事項について学ぶほどに「反対する」姿勢を強くする理由は日本・米国・欧州の政府がILCに予算を出すと言っていないのに岩手県・一関市などは多くの予算(血税)を無駄遣いしている。
 岩手県・一関市などはあたかも日本・米国・欧州の政府が関心を持っているように言っているが関心を持っているのは一部の素粒子物理学のコミュニティであって、その関心も「岩手県・一関市などから金(血税)を得られること」です。
 もう一つは、そういったILC推進でお金(血税)をもぎ取っていく研究者たちが「真摯な説明姿勢を持たない」ということと「(反対している)地元の人達としっかり向き合おう」とする姿勢がみじんも見られないことです。

「欧州・ILCに出せるお金はないが関心の扉は用意している」
「米国・ILCに関心があるが現物支給」
「日本政府・ILCを日本に誘致すると言っていないし候補地を決めたことも無い」

これらの証拠を以下に並べます

2019年3月7日   
文部科学省 磯谷桂介研究振興局長

「国際リニアコライダー(ILC)」に関する政府見解

『全文』
 本日のリニアコライダー国際推進委員会開催にあたり、本レターを送付できることは大変光栄です。
 国際リニアコライダー(ILC)計画は、国際的な研究者組織において検討が進められてきた素粒子物理学分野における学術の大型プロジェクトであると承知しています。
 これまで我が国においては、ILC計画について、我が国の科学コミュニティの代表機関である日本学術会議における「国際リニアコライダー計画に関する所見(2013年9月)」を契機として、文部科学省において「国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議」を設置し、科学的意義、コスト及び技術的成立性、人材の確保・育成方策、体制及びマネジメントの在り方等の観点から、検証を進めてきました。
 2017年11月には、ILCに関する国際的な研究者組織において、欧州CERNにおけるLHC実験を踏まえて、ILCの衝突エネルギーを500ギガ電子ボルトから250ギガ電子ボルトとする見直し案(250ギガ電子ボルトILC計画)が公表されました。
 これを受けて、有識者会議においてILC計画について改めて検証を行い、2018年7月に「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を取りまとめ、計画の全体像を可能な限り明確に示した上で、日本学術会議に対して、ILC計画について改めて審議を依頼しました。
 2018年12月には、日本学術会議より文部科学省への回答として「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」が取りまとめられ、「政府における、ILCの日本誘致の意思表明に関する判断は慎重になされるべきであると考える」とされました。
 文部科学省においては、同所見の内容を精査しつつ、ILCに関する意義や効果について、学術的な観点のみならず、関係省庁とも連絡を密にして意見を聴取し、検討を行いました。

 ここに現時点のILC計画に関する見解を述べます。
 国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議による「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を受け、日本学術会議が審議を行い公表した「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」において、「現状で提示されている計画内容や準備状況から判断して、250ギガ電子ボルトILC計画を日本に誘致することを日本学術会議として支持するには至らない」「大型計画について学術会議として更に検討するとすれば、マスタープランの枠組みで行うのが適切」とされたことを踏まえ、ILC計画については、現時点で日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティの理解・支持を得られるかどうかも含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープラン)で議論することが必要であると考えます。
 併せて、国外においても、欧州素粒子物理戦略等における議論の進捗(しんちょく)を注視することとします。
 また、ILC計画については、日本学術会議の所見において、諸分野の学術コミュニティとの対話の不足、成果が経費に見合うか、技術的課題の克服、実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルの持続性といった懸念が指摘されている一方、素粒子物理学におけるヒッグス粒子の精密測定の重要性に関する一定の学術的意義を有するとともに、ILC計画がもたらす技術的研究の推進や立地地域への効果の可能性に鑑み、文部科学省はILC計画に関心を持って国際的な意見交換を継続します。

・令和元年(2019年)3月の文部科学省によるILC計画への関心表明
 ◆2019年3月7日、文部科学省・磯谷桂介研究振興局長、「国際リニアコライダー(ILC)」に関する政府見解
  ※政府見解の部分(前文)は以下の通り
 ここに現時点のILC計画に関する見解を述べます。
 国際リニアコライダー(ILC)に関する有識者会議による「ILC計画の見直しを受けたこれまでの議論のまとめ」を受け、日本学術会議が審議を行い公表した「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する所見」において、「現状で提示されている計画内容や準備状況から判断して、250ギガ電子ボルトILC計画を日本に誘致することを日本学術会議として支持するには至らない」「大型計画について学術会議として更に検討するとすれば、マスタープランの枠組みで行うのが適切」とされたことを踏まえ、ILC計画については、現時点で日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティの理解・支持を得られるかどうかも含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープラン)で議論することが必要であると考えます。
 併せて、国外においても、欧州素粒子物理戦略等における議論の進捗(しんちょく)を注視することとします。
 また、ILC計画については、日本学術会議の所見において、諸分野の学術コミュニティとの対話の不足、成果が経費に見合うか、技術的課題の克服、実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルの持続性といった懸念が指摘されている一方、素粒子物理学におけるヒッグス粒子の精密測定の重要性に関する一定の学術的意義を有するとともに、ILC計画がもたらす技術的研究の推進や立地地域への効果の可能性に鑑み、文部科学省はILC計画に関心を持って国際的な意見交換を継続します。


・米国務省から外務大臣あてのILCへの支持を示す書簡
 ◆2020年2月20日、文部科学省研究振興局、『国際リニアコライダー(ILC)計画について』
  ※米国務省から外務大臣あての書簡は確認されていないが、文部科学省は、米国エネルギー省(DOE)との間のディスカッショングループ(DG)での意見交換の中でとして以下の記載がある。
  「米国からは、日本がILC計画をホストする場合には支持すること、現物貢献が可能である旨のコメントがあったが、現時点で具体的な貢献の表明はなく、米国内での更なる検討が必要であると承知している。」


・日独、日仏政府間による協議の場の創設合意
◆2020年2月20日、文部科学省研究振興局、『国際リニアコライダー(ILC)計画について』
 デスカッショングループ(DG)を開催し「米国からは、日本がILC計画をホストする場合には支持すること、現物貢献が可能である旨のコメントがあったが、現時点で具体的な貢献の表明はなく、米国内での更なる検討が必要であると承知している。」


・米国での国際会議における文部科学省からの再度の関心表明
◆2020年2月20日、文部科学省研究振興局、『国際リニアコライダー(ILC)計画について』
  日独仏英4者での意見交換を初めて実施し「日本のマスタープラン及ぴロードマップの状況を説明し、英仏独からは、国際的な分担について。様々な国際・国内のプロジェクトを抱えているため、現時点でILC計画に参加する資金的な余力はないとのコメントがあった。」


・欧州素粒子物理戦略において協力姿勢が明確になる
◆2020年6月19日、欧州原子核研究機構CERN、『欧州素粒子物理戦略2020』・・・・全文は、添付【資料5】
原文をホームページで公開していますが、ILC 国際リニアコライダーに触れている
のは本文74行中3行(和訳は、当方による)。
内容は「国際リニアコライダーなどの他のプロジェクトにドアを開けておく」(3行の他・全文は、添付【資料5】)
“Europe should keep the door open to participating in other headline projects that will serve the field as a whole, such as the proposed International Linear Collider project.”
「ヨーロッパは、ドアを、提案された国際リニアコライダープロジェクトなどのフィールド全体を提供するであろう他のヘッドラインプロジェクトに関与することに開けておくべきです」


2020年2月20日  文部科学省研究振興局
国際リニアコライダー(ILC)計画について

【発表要旨】
1.文部科学省は、2019年3月7日にILC計画に関する見解を示し、これに沿って対応してきている。

(国内の検討状況)
2.本年1月30日に公表された日本学術会議のマスタープラン2020において、ILC計画は、「重点大型研究計画」に選定されなかった。これは、日本の科学コミュニテイを代表する同会議が。同計画を計画の妥当性、社会的価値(国民の理解等)、国家の戦略性・緊急性等の観点から、「速やかに実施すべき計画」として位置付けられないものと判断したもの。

3. 今後、本マスタープランの結果を踏まえ、文部科学省の科学技術・学術審議会の作業部会において、申請に基づき、優先度の高い大型学術研究プロジェクトを掲載した「ロードマップ」を策定することとなる。なお、ILC計画は、「重点大型研究計画」のヒアリング対象計画になったため、ロードマップの審査の対象となる。

(欧州の検討状況)
4.次期欧州素粒子物理戦略に向けては、欧州の科学コミュニテイが、ILC計画や欧州自身の計画など、同様の科学的成果を目指す様々な電子・陽電子衝突型加速器の選択肢について議論を行っていると承知している。

(国際的な意見交換)
5.文部科学省は、米国エネルギー省(DOE)との間で、ディスカッショングループ(DG)を昨年4月に開催するなど意見交換を行っている。米国からは、日本がILC計画をホストする場合には支持すること、現物貢献が可能である旨のコメントがあったが、現時点で具体的な貢献の表明はなく、米国内での更なる検討が必要であると承知している。

6.文部科学省は、昨年7月にドイツ連邦教育省(BMBF)、フランス高等教育・研究・イノベーション省(MESRI)を訪問し、両政府機関との間でDGを設けることに合意した。
  また、昨年10月、BMBFとのDGを開催するとともに、昨年11月には英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)を訪問し、意見交換を始めた。さらに、本年2月には、独BMBF、仏MESRI、英BEIS・科学技術施設会議(STFC)との4者での意見交換を初めて実施した。日本からは、日本のマスタープラン及ぴロードマップの状況を説明し、英仏独からは、国際的な分担について。様々な国際・国内のプロジェクトを抱えているため、現時点でILC計画に参加する資金的な余力はないとのコメントがあった。

(まとめ)
7.巨額の経費を要する国際プロジェクトであるILC計画は。技術的成立性や国際的な分担を含む様々な課題が解決されるとともに、国内外の幅広い協力が得られることが必要である。これまでの国内外の議論も踏まえ、文部科学省は、引き続き、昨年3月に示した見解に沿って、素粒子物理学におけるー定の学術的意義等にも鑑み、関心を持って米欧との意見交換を実施する。


2020年6月19日  欧州原子核研究機構CERN
『欧州素粒子物理戦略2020』

ILC 国際リニアコライダーに触れているのはこの部分。
その内容は「国際リニアコライダーなどの他のプロジェクトにドアを開けておく」
“Europe should keep the door open to participating in other headline projects that will serve the field as a whole, such as the proposed International Linear Collider project.”
「ヨーロッパは、構想中の国際リニアコライダープロジェクトなど、この分野全般に役立つであろう他のいくつかの大型プロジェクトに参加する可能性を残して置いた方が良いと考えています」

文科省によるこれの邦訳「2020年6月23日萩生田光一文部科学大臣記者会見録」にて
”ILC計画については、タイムリーに実現する場合には欧州の素粒子物理学コミュニティは協力を望むであろう“であり、「これは、欧州の研究者コミュニティが素粒子物理学分野の取組みの優先度を示す同戦略に於いて、ILC計画に具体的な協力を持って参加することまでは踏み込まなかったものと認識しています」と述べています。

ウェブサイト(原文はこちら)
https://home.cern/news/news/physics/particle-physicists-update-strategy-future-field-europe?fbclid=IwAR2EZ4o6m97w0KH-mm9W0DAhzhBM00HSCuztt8YvRx66tSdymrRMGJT7Owg

タイトル
「Particle physicists update strategy for the future of the field in Europe」
「ヨーロッパ素粒子物理学研究の今後に関する最新戦略」
サブ・タイトル
「The CERN Council today announced that it has updated the strategy that will guide the future of particle physics in Europe」
「本日、CERN(欧州原子核研究機構・セルン)の評議会は、欧州素粒子物理学の将来の指針を示す戦略を新たに作成したと発表した。」

19 JUNE, 2020 掲載年月日(2020年6月19日)

本文1
Following almost two years of discussion and deliberation, the CERN Council today announced that it has updated the strategy that will guide the future of particle physics in Europe within the global particle-physics landscape. Presented during the open part of the Council’s meeting, held remotely due to the ongoing COVID-19 pandemic, the recommendations highlight the scientific impact of particle physics, as well as its technological, societal and human capital.
ほぼ2年に渡る議論と審議の末、CERN評議会は本日、世界における欧州素粒子物理学の将来の指針となる戦略を新たに作成したと発表した。新型コロナウイルスの感染拡大ためオンライン会議で開催された評議会のミーティングで発表されたこの戦略は、素粒子物理学の科学的影響を重要視すると同時に、技術的、社会的、人的資本を強調している。

本文2
By probing ever-higher energy and thus smaller distance scales, particle physics has made discoveries that have transformed the scientific understanding of the world. Nevertheless, many of the mysteries about the universe, such as the nature of dark matter, and the preponderance of matter over antimatter, are still to be explored. The 2020 update of the European Strategy for Particle Physics proposes a vision for both the near- and the long-term future of the field, which maintains Europe's leading role in addressing the outstanding questions in particle physics and in the innovative technologies being developed within the field.
素粒子物理学は、これまでになく高いエネルギーと、より小さな距離スケールを精査することにより、世界の科学的理解を書き変える発見をしてきた。 それでもなお、暗黒物質の性質や反物質に対する物質の優位性など、宇宙に関する謎の多くはまだ解明されていない。『欧州素粒子物理学戦略2020』は、この分野の中長期的な将来のビジョンを示し、素粒子物理学および素粒子物理学で開発されている革新的な技術に関する未解決の問題に取り組む上で、これまで通りヨーロッパが主導的役割を維持することを勧告している。

本文3
The highest scientific priorities identified in this update are the study of the Higgs boson - a unique particle that raises scientific profound questions about the fundamental laws of nature - and the exploration of the high-energy frontier. These are two crucial and complementary ways to address the open questions in particle physics.
同戦略の中の最重要事項は、ヒッグス粒子の研究である。他の素粒子と性質が異なり、自然の基本法則について科学的に深い疑問を投げかけるヒッグス粒子の研究と、高エネルギーフロンティアの探索の2つの研究は、素粒子物理学における未解決の疑問に取り組むための互いに補完しあう重要な研究である。

本文4
“The Strategy is above all driven by science and thus presents the scientific priorities for the field,” says Ursula Bassler, President of the CERN Council. “The European Strategy Group (ESG) – a special body set up by the Council – successfully led a strategic reflection to which several hundred European physicists contributed.” The scientific vision outlined in the Strategy should serve as a guideline to CERN and facilitate a coherent science policy across Europe.
「この戦略は何よりも科学に基づき決定したものであり、この分野の科学的な優先事項を示しています。評議会によって設立された特別組織である欧州戦略グループ(ESG)は、数百人のヨーロッパの物理学者の貢献により優れた戦略を作りました」 と、CERN評議会の会長であるウルスラ・バスラーは述べている。戦略に明記されている科学的ビジョンは、CERN のガイドラインであり、ヨーロッパ全体における科学政策の一貫性を促進するはずである。

本文5
The successful completion of the High-Luminosity LHC in the coming decade, for which upgrade work is currently in progress at CERN, should remain the focal point of European particle physics. The strategy emphasises the importance of ramping up research and development (R&D) for advanced accelerator, detector and computing technologies, as a necessary prerequisite for all future projects. Delivering the near and long-term future research programme envisaged in this Strategy update requires both focused and transformational R&D, which also has many potential benefits to society.
現在、CERNで改良工事が行われている高輝度LHCは、10年後に無事完了する予定であり、引き続きヨーロッパ素粒子物理学の中心的役割を果たすことになる。戦略は、今後の全プロジェクトに必要不可欠になる高機能加速器、検出器、コンピュータ技術の研究開発の強化を重視している。また、今回の戦略で想定されている将来の中長期的な研究プログラムの実施には、社会に多くの利益をもたらす可能性のある革新的で、焦点を絞った研究開発が必要であるとしている。

本文6
The document also highlights the need to pursue an electron-positron collider acting as a “Higgs factory” as the highest-priority facility after the Large Hadron Collider (LHC). The Higgs boson was discovered at CERN in 2012 by scientists working on the LHC, and is expected to be a powerful tool to look for physics beyond the Standard Model. Such a machine would produce copious amounts of Higgs bosons in a very clean environment, would make dramatic progress in mapping the diverse interactions of the Higgs boson with other particles and would form an essential part of a rich research programme, allowing measurements of extremely high precision. Operation of this future collider at CERN could begin within a timescale of less than 10 years after the full exploitation of the High-Luminosity LHC, which is expected to complete operations in 2038.
さらに、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の次に優先度が高い施設として位置付けられた「ヒッグスファクトリー」としての機能を果たす電子・陽電子衝突型加速器を進める必要性を強調している。 ヒッグス粒子は、LHCで研究している科学者によって2012年にCERNで発見され、標準モデルを超える探求をするための強力なツールになると期待されている。このような機械は、非常にクリーンな環境で大量のヒッグス粒子を生成し、ヒッグス粒子と他の粒子との多様な相互作用の解析を劇的に進歩させる。また、多くの研究プログラムの重要な部分を形成し、非常に高精度の測定を可能にする。この将来のコライダーは、2038年に運用を完了する予定の高輝度LHCを使用する実験が終了した後、10年以内に開始される可能性がある。

本文7
The exploration of significantly higher energies than the LHC will allow new discoveries to be made and the answers to existing mysteries, such as the nature of dark matter, to potentially be found. In acknowledgement of the fact that the particle physics community is ready to prepare for the next step towards even higher energies and smaller scales, another significant recommendation of the Strategy is that Europe, in collaboration with the worldwide community, should undertake a technical and financial feasibility study for a next-generation hadron collider at the highest achievable energy, with a view to the longer term.
LHCよりもはるかに高いエネルギーを探索することで、新しい発見が可能になり、暗黒物質の性質など、既存の謎に対する答えが見つかる可能性がある。
素粒子物理学会がさらに高いエネルギーと、より小さなスケールに向けた次のステップに備える準備ができていることから、戦略に含まれているもう1つの重要な勧告事項は、ヨーロッパが世界の関連機関と協力して、 電子・陽電子衝突型加速器を実現可能な第1段階として、次世代ハドロン衝突型加速器の研究を、技術的、財政的に実現可能にすることである。

本文8
It is further recommended that Europe continue to support neutrino projects in Japan and the US. Cooperation with neighbouring fields is also important, such as astroparticle and nuclear physics, as well as continued collaboration with non-European countries.
また、ヨーロッパが日本と米国におけるニュートリノプロジェクトを、引き続き支援することが勧告されている。 宇宙粒子物理学や原子核物理学など近隣分野との協力、および非ヨーロッパ諸国との継続的な協力も重要である。

本文9
“This is a very ambitious strategy, which outlines a bright future for Europe and for CERN with a prudent, step-wise approach. We will continue to invest in strong cooperative programmes between CERN and other research institutes in CERN’s Member States and beyond,” declares CERN Director-General Fabiola Gianotti. “These collaborations are key to sustained scientific and technological progress and bring many societal benefits.”
「この戦略は、非常に野心的な戦略であり、慎重な段階的アプローチでヨーロッパとCERNの明るい未来を概説しています。 私たちは、CERNとCERN加盟国の研究機関、さらにそれ以外の国々の研究機関との間の優れた協力プログラムに引き続き投資するつもりです。これらの共同研究は、持続的な科学技術の進歩の鍵であり、多くの社会的利益をもたらします」と、CERNのファビオラ・ジャノッティ事務局長は述べている。

本文10
“The natural next step is to explore the feasibility of the high-priority recommendations, while continuing to pursue a diverse programme of high-impact projects,” explains ESG chair Halina Abramowicz. “Europe should keep the door open to participating in other headline projects that will serve the field as a whole, such as the proposed International Linear Collider project.”
「当然次のステップは、現在取り組んでいる影響力の大きいプロジェクトの多様なプログラムを実施しながら、勧告に基づき、優先度が高い事項の実現可能性を探ることです。ヨーロッパは、構想中の国際リニアコライダープロジェクトなど、この分野全般に役立つであろう他のいくつかの大型プロジェクトに参加する可能性を残して置いた方が良いと考えています」と、ESG議長のハリナ・アブラモビッチは説明した。(訳注)

本文11
Beyond the immediate scientific return, major research infrastructures such as CERN have broad societal impact, thanks to their technological, economic and human capital. Advances in accelerators, detectors and computing have a significant impact on areas like medical and biomedical technologies, aerospace applications, cultural heritage, artificial intelligence, energy, big data and robotics. Partnerships with large research infrastructures help drive innovation in industry. In terms of human capital, the training of early-career scientists, engineers, technicians and professionals provides a talent pool for industry and other fields of society.
CERNのような大型研究インフラは、技術的、経済的、人的資本があるため、科学的利益を即座にもたらすほか、社会に対して幅広い影響力を持つ。加速器、検出器、コンピュータの進歩は、医療および生物医学技術、航空宇宙応用、文化遺産、人工知能、エネルギー、ビッグデータ、ロボット工学などの分野に大きな影響を及ぼす。 大型研究インフラとの協力は、産業の技術革新を推進するのに役立つ。 人的資本の観点から、経験の少ない科学者、エンジニア、技術者、専門家のトレーニングは、産業や社会のその他の分野に人材を提供する役割を担う。

本文12
The Strategy also highlights two other essential aspects: the environment and the importance of Open Science. “The environmental impact of particle physics activities should continue to be carefully studied and minimised. A detailed plan for the minimisation of environmental impact and for the saving and reuse of energy should be part of the approval process for any major project,” says the report. The technologies developed in particle physics to minimise the environmental impact of future facilities may also find more general applications in environmental protection.
この戦略では、環境とオープンサイエンスの重要性を、2つの必要不可欠な側面として強調している。 「素粒子物理学が環境に与える影響は、引き続き注意深く研究し、最小限に抑える必要がある。 環境への影響を最小限に抑え、エネルギーを節約して再利用するための詳細な計画は、主要なプロジェクトを承認する過程の一部として位置付ける必要がある」と明記されている。 将来、研究施設の環境への影響を最小限に抑えるために素粒子物理学が開発する技術は、他の環境保護の分野でも応用され、一般化されるようになるかもしれない。

本文13
The update of the European Strategy for Particle Physics announced today got under way in September 2018, when the CERN Council, comprising representatives from CERN’s Member and Associate Member States, established a European Strategy Group (ESG) to coordinate the process. The ESG worked in close consultation with the scientific community. Nearly two hundred submissions were discussed during an Open Symposium in Granada in May 2019 and distilled into the Physics Briefing Book, a scientific summary of the community’s input, prepared by the Physics Preparatory Group. The ESG converged on the final recommendations during a week-long drafting session held in Germany in January 2020. The group’s findings were presented to the CERN Council in March and were scheduled to be announced on 25 May, in Budapest. This was delayed due to the global Covid-19 situation but they have now been made publicly available.
本日発表した欧州素粒子物理学の新たな戦略を作成する作業は、2018年9月、CERNの加盟国と準加盟国の代表者で構成されるCERN評議会が、作業過程を調整するため欧州戦略グループ(ESG)を設立した日に開始された。 また、ESGは、科学学界と緊密な協議を重ねた。 2019年5月にグラナダで開催された公開シンポジウムでは、提出された200件近くの議題が議論され、物理学準備グループが物理学ブリーフィングブック(状況説明書)にまとめている。さらに、 ESGは2020年1月にドイツで1週間にわたり開催された起草セッションで、最終勧告書を完成させた。新たに書き換えられた戦略は、3月にCERN評議会に提出され、5月25日にブダペストで発表される予定だった。これは世界的な新型コロナウイルスの感染拡大のために遅れたが、現在は一般に公開されている。

(訳注)現在検討されている大型プロジェクト(ヒッグスファクトリー)は次の4つである。
ILC :国際リニアコライダー(直線型/ 日本)
CLIC:コンパクトリニアコライダー(直線型/ CERN ヨーロッパ)
FCC :フーチャーサーキュラーコライダー(円形/ CERN ヨーロッパ)
CEPC:円形電子・陽電子衝突型加速器(中国)
出典 CERN Courier (国際高エネルギー物理学レポート)2021年1月27日号
https://cerncourier.com/a/
参考資料:
CERN Courier
『欧州素粒子物理学戦略2020』2020 Update of the European Strategy for Particles Physics
Deliberation Document on the 2020 Update of the European Strategy for Particle Physics
出典:https://home.cern/news/news/physics/particle-physicists-update-strategy-future-field-europe
翻訳:翻訳チーム / 監修:「放射能から子供を守る岩手県南・宮城県北の会」菅原佐喜雄


2020年6月23日  萩生田光一文部科学大臣記者会見録
https://www.youtube.com/watch?v=oSOHFgNPXnA

【質問と回答】
日刊工業新聞社の富井記者
「いま東北地方に~あの~設置が予定されている~国際リニアコライダーについてお聞きします」
「え~と、今週ですね~欧州の方で欧州、科学技術の長期計画欧州戦略というものがあるんですが、そこに、あの~国際リニアコライダーの結果が盛り込まれた」
「ただ一方で、その~文章からは、日本がやるのであれば欧州も協力するといったような少しうしろ向きな(表現?)にも、とられますので、今回それに載ったということで、大臣の所見と、あと、今後政府としての話し合いの方針、方向性などあれば教えてください」

萩生田文科大臣
「はい。え~と。お言葉ですけど”東北地方に予定している”という事実はございませんで。九州でも熱心に誘致をしていますので、改めてお願いしたいと思います」
「あの~先週の6月19日に欧州合同原子核機構(CERN)が発表した欧州素粒子物理戦略2020に於いて”ILC計画については、タイムリーに実現する場合には欧州の素粒子物理学コミュニティは協力を望むであろう“と記載されました」
「え~これは、欧州の研究者コミュニティが素粒子物理学分野の取組みの優先度を示す同戦略に於いて、ILC計画に具体的な協力を持って参加することまでは踏み込まなかったものと認識しています」
「また、欧州自身の将来の加速器研究計画について、より多くの分量を割かれており、技術的及び財政的な実現可能性を調査すべきことも記載されています」
「で。文科省としては、今回の欧州素粒子物理戦略も踏まえて、米欧の政府機関との意見交換などを行うなどして、昨年の3月に示したILC計画に関する見解(下記、2019年3月7日、文部科学省 磯谷桂介研究振興局長、国際リニアコライダー(ILC)に関する政府見解)に沿って、対応してまいりたいと思います」

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