[国民は見逃さない]ILC誘致を考える会が意見書提出

日本学術会議 会長 山極壽一様
令和元年6月3日 ILC誘致を考える会(一関)から
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日本学術会議
会長 山極壽一様
ILC誘致を考える会
共同代表・千坂げんぽう
原田徹郞

拝啓 貴会時下入梅まじかの候益々ご清栄のことと慶賀申し上げます。
 さて、貴日本学術会議(以下学術会議と略)が多くの時間を割き、昨年12月19日、「国際リニアコライダー(ILC)計画の見直し案に関する所見」(以下所見と略)を文部科学省に提出されたこと大変ありがとうございます。
 私たちは、推進側の進め方がILC設置予定地住民の声を無視しており、地元住民を中心とする岩手県民にその正しい内容伝達に務めるよう啓発活動を進めて参りました。貴学術会議の結論は、私たちにとって中立かつ正当なものであり、賛意を表する内容と考えております。このような細部にわたり深みのある報告をまとめていただきましたことに感謝申し上げます。
 それに対し、所見発表後の推進側の行動は、私たちにとって目に余るものがありました。このことを学術会議に情報提供させていただくとともに、今後の学術のあり方について、ILC誘致をめぐって見えてきた問題点を地元住民の目線から問題提起し、ご検討をお願いする次第です。                              敬具


Ⅰ、所見発表後の推進側行動についての疑念
(1)マスコミの反応
 学術会議の所見発表に対して、一部を除く全国紙のメディアが「支持するに至らない」とする内容を正しく報道したのに対し、推進側は、地元岩手県のマスコミ(岩手日報)と漫画家を利用し、今回の「所見」はILCの意義を認めるものであり、問題点は金額と技術だけだとの報道をしました【資料①】。さらに政治が決断すれば実現可能だ【資料②】とのミスリーディングを県民・市民に行っております。一方、私たちの活動について岩手日報は、取りあげないか意図的に小さくしか掲載しておりません。そしてILC誘致が前進しているとのミスリード報道を垂れ流しておりますので、6月3日付けで、岩手日報社に公開意見書【資料③】を提出いたしました。
(2)素粒子物理学研究者たちの反応
 さらなる問題は、推進側の中心となっている素粒子物理学者たちにあります。大型研究計画の決定・実施に至る本来の道筋(マスタープランでの検討)を知りながら、政治家を巻き込み、当初は昨年末までに政府(文部科学省)見解を示すよう迫り、それが出来ないと知ると今度は今年3月中に示せと迫りました。このような態度は、私たちが常々指摘しております「自分たち素粒子物理学は科学の最先端を担っているから、その要請を受け入れるのは当然だ」とするパターナリズムのあらわれです。
 彼らは、岩手県民のほとんどが大型研究計画のマスタープランや学術会議のあり方を知らないことを利用し、学術会議の所見について「事実誤認に知識不足ばかり。時間をロスしてばっかりだ」(鈴木厚人東北ILC準備室長、2月6日)と講演会の場で堂々と不満を聴衆にさらけ出しています【資料④】。またそこで経済界からの意見を引用する形で、「学術会議の組織・運営に疑問」とし、学術会議の存在意義を貶めていました。こうしたことを受けて、ILC誘致が決まらないのは「一部の科学者の反対」によるものだという宣伝まで流布させています【資料⑤】。
 どこの組織でも、「利益相反」に関しては物事を決める際、最も守られなければいけないことであり、「マスタープラン策定」においては指針として述べられているのに、それを無視するような発言は、研究者にあるまじき傲慢な振る舞いと私どもには映ります。
 それどころか、所見発表後も地元の子供たち向けの特別授業に出向き、事業が進捗してバラ色の未来が来るかのような教育を今もなお実施しております【資料⑥】。
(3)県・市の財政支援について
 推進側の中心である素粒子物理学研究者を傲慢にさせているのは、岩手県と一関市、奥州市の首長が、ILC誘致に前のめりになり、ふんだんに予算を付けているからです。たとえば令和元年度に一関市は「国際リニアコライダー推進事業費」として前年度と同程度の2530万円をつけました【資料⑦】。
 科学コミュニティ、ILC候補地住民、日本の財政問題、岩手県と一関市の財政問題(人口問題)…ILCがかかえるこれらの問題情況を無視し、誘致が決まればバラ色の未来があるとの宣伝【資料⑧】だけに税金を使っているのです。それも、住民の理解を得るためと称して、推進側の研究者や、漫画家達を講演会に講師として呼び、推進の宣伝とアピールを行うだけですが、こうした講演会が地元民との対話の実績として学術会議に提供されたのです。
 私たちの活動は全て手弁当であり、活動できることは限られています。しかし、せめて地元マスコミと推進側がいかに意図的に真実とかけ離れた報道をしているかは貴学術会議にお伝えしたいと考え、今回の報告となった次第です。
 ILC推進は岩手県が最初に提起し、一関市、奥州市が追随する形で運動が展開されてきました。従って、ILC推進活動における問題点は素粒子研究者にではなく、地元の県民・市民にあると見えるかも知れません。しかし私たちはこれをもっと別の要因の絡んだ問題だと考えています。推進側から県や市は、良いことだけ聞かされてプロジェクトを立ち上げたと思われます。そのため後々、県や市がリスクやデメリットを知ったところで、始めてしまった推進事業を止めて考え直す声は抑えられたと推察します。止められないための負の情報を隠した誘致活動が続くと、さらに止められなくなったのが今に続いるようです。
 放射線や環境リスクについて知見を持たない行政は、そうしたことは専門家に聞かなければ分からないと言うしかないのでしょう。他方で研究者たちは、地元を説得するのは行政のやることだと言い、互いに責任を押しつけあいました。その結果が地域コミュニティとの対話不足につながったものと考えます。

Ⅱ、日本学術会議にご検討いただきたいこと
 以上をふまえて、学術会議にご検討いただきたいことは次の点です。
(1)ILC推進の研究者たちは、自分たちの学術研究を成就させようとするあまり、政治や行政を利用し、当事者となる地域住民の暮らしを軽視してきました。このことは、科学者としてあるまじき行為だと思います。政治を動かし、別枠予算をつけさせれば実現すると、なぜ一部の研究者たちは考えたのか。なぜ県内マスコミや一部全国紙(産経新聞)はそれに追随し、誤報ともとれる意図的な推進報道を繰り返すのでしょうか。今回の件について、貴学術会議には、ぜひお心にとどめていただきたくお願いいたします。
(2)推進側には研究推進費や宣伝費など、様々な予算査定がなされる回路が存在します。それに対し、私たち推進慎重派は全てを自分で負担しなければならず、限界があります。そのために、無理な事業がその無理に気づいて途中で止めることなく極限まで期待を高めて進んでしまう構造をストップさせることができずにいます。学術研究と行政との関係について、今一度その構造を検討し、必要な修正をお願いいたします。逆にいえば、推進側の共同幻想が早い段階で止まり、適切で必要な学術研究が、住民にとっても期待を持って行われる回路が形成されるべきと思います。そうでなければ私たちは、何度も繰り返しILCの悪夢に襲われることになるでしょう。
(3)現在進められているものを含め、今後のマスタープランにおいても、同様の事例が出てくるものと推察します。その際、今回のILCに関しては、技術的成立性や、国際経費分担の見通しが明らかでない点が、支持するに至らない理由の中心に取りあげられていますが、本回答にはそれ以外にも、安全性、環境への影響や、技術的・経済的波及効果の不透明性があげられており、また地域住民との対話不足のみならず、学術コミュニティとの対話不足までもが指摘されております。
 本所見では「ビックサイエンスの将来の在り方は、学術界全体で考えなければならない課題」だとしています。大型プロジェクトは、地質学や生態学などの自然科学領域はもちろん、倫理学、社会学、経済学、法学などの幅広い分野の研究領域にも関わるものであり、今後のマスタープランではより広範な議論をもって進めていかれるよう要請いたします。
(4)マンガ「会長島耕作」ILC編・第四回(講談社・週刊モーニング3月7日発売)で、「少数のメリットを守るか、多数のメリットを優先するか、秤にかけたらどうしても後者になるのはしかたないことなのかな」という内容【資料⑨】が出ました。この台詞の登場場面は、学術会議の方とともに、私たちのことだ思われる地元住民が登場し、そこで推進側の研究者と討論したあとに(こうした討論会はもちろん実現されてはいませんが)この台詞が出てくるのです。作者の弘兼憲史氏は3月27日に岩手県で行った講演【資料⑩】で、「まわりがいうので、私もそう思った」とか、「マンガでILCを取り上げたのは山梨県小淵沢の別荘の設計士が同じというつながりで昨年2018年4月に三菱重工業の西岡喬特別顧問(AAA先端加速器科学技術推進協議会会長)から協力を求められたのが契機だった」と述べ、個人の意見でこうしたことを書いているのではないことを明言しました。従って、彼の書いた台詞には間違いなく、推進側の研究者も関わっていると思います。学術コミュニティの代表として、このような推進側の素粒子物理学者たち(ただしその全部ではないと思います)に、研究者としての倫理を保ち、冷静実直に研究活動を行うよう正していただきたい。そして学術コミュニティの清浄化を図っていただきたいと思います。貴学術会議のご健闘を祈念しております。


株式会社岩手日報社 代表取締役社長 東根千万億様
令和元年6月3日 ILC誘致を考える会(一関)から
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株式会社岩手日報社 
代表取締役社長 東根千万億様
「ILC誘致を考える会」共同代表
千坂げんぽう
原田徹郎
公開意見書

 貴社はこれまで、ILC誘致の推進に深く関わり、推進側の県や関係自治体、ならびにILC推進の研究者たちの意見や考えを無批判に広く報道してきました。それに対し、この1年ほどで明らかになってきた、ILC誘致に関わるコスト問題や様々な環境リスクなど、地元へのデメリットについてはほとんど報道せず、非常に未成熟で危険を伴う本計画の実像を岩手県民にほとんど伝えてきませんでした。
 そして、昨年12月19日の日本学術会議の回答、及び今年3月7日の文部科学省研究振興局の見解は、そうした推進に伴う問題点をふまえて発表されたものであり、これらによって現段階では、ILC誘致は不可能に近い状態に陥っています。これ以上、推進側に荷担する偏向した報道は、読者にとって有害であり、すみやかに、私たち読者の側に立った、公明正大で正確な報道機関に戻ることを強く要請するものです。

 以下、このような意見を表明するに至った経緯を詳述します。

(1)昨年8月10日、「ILC誘致を考える会」共同代表の千坂を含む6名で日本学術会議に提出した意見書は、現時点ではILC誘致に賛成出来ない理由として以下の点を挙げました。 
 ①岩手県・一関市のこれまでのILC誘致運動のあり方についての問題点
  1)ILC誘致に関するリスク・コストについてのコミュニケーションが不足
  2)立地地域の財政負担についての説明がない
  3)事業実施にともなう環境改変のリスクが周知されていない
  4)跡地利用についての懸念に対する対応が不適切
  5)ILC推進に子供たちを利用していることへの懸念
  6)ILC推進が「復興のため」と論じられていることへの懸念
 ②大規模で複雑な科学的公共事業にともなう内在的問題についての指摘
 この意見書提出以前は、ほとんどの政党が推進の立場に賛成するという戦前の大政翼賛会的な空気があり、そのような空気が岩手県を覆い、特に一関市では色濃く感じました。
貴社のオピニオン欄「いわての風」に6年前からILC推進反対の意見が掲載されておりました。しかしその後、「ILC誘致を考える会」が日本学術会議に地元住民の立場からトリチウムなどの放射能を出す施設への不安を中心に意見書を提出するに及び、「いわての風」へのILCへの意見掲載が中止されました。少数意見をも取りあげるという公正性を旨とする新聞の使命に鑑み、読者に対する説明をいただきたいところです。
 そして、日本学術会議は正当な議論を重ねた上で、ILC誘致運動の問題点を指摘しましたが、事実そこにおいて、私たちの意見が決して偏った一部の意見ではなかったことが示されたと思います。

(2)2018年12月19日に学術会議の回答が出てからの貴社の報道は、常軌を逸したものになりました。推進側研究者の山下了氏などの「研究者コミュニティの合意形成も、国際科学拠点の形成の意義も認められた」とか「残された課題は、経費の国際分担や、技術面だけだ」といった推進側に都合の良い発言だけを引用し、学術会議の回答の真の内容を取りあげませんでした。そのために回答書を直接読まない県民は、貴社の報道により誤った認識を植えつけられています。そのような虚偽情報にも近い操作をしてまで岩手県民をどこに導こうとしているのでしょうか。
 日本学術会議の回答にはこうあります。「ILC計画(見直し案)をわが国で実施することの国民及び社会に対する意義について」の項目で、「純学術的意義以外の技術的・経済的波及効果については、ILCによるそれらの誘発効果は現状では不透明な部分があり、限定的と考えられる。(中略)地域振興の文脈で語られている事項及び土木工事や放射化生成物の環境への影響に関する事項について、国民、特に建設候補地と目されている地域の住民に対して、科学者コミュニティからの正確な情報提供に基づいて一層充実した対話がなされることが肝要である」としています。
 この指摘は、学術会議の回答書の中間報告でも述べられていましたので、早くからの学術会議の認識だったと思われます。そのため昨年8月10日の6名の意見書提出を受けて推進側は、急遽、9月24日に一関市で初めての説明会を開くことを発表しました。しかし、その説明会での質問時間は30分しか予定されておらず、トリチウムの不安など疑問や反対の声が続き、30分延長しましたが十分な答えが示されない中、閉会となりました。その際の報道でも、貴社はILC誘致反対の声が強いことを載せませんでした。
 
(3)その後、今年3月7日に、推進側の要請を受けて文部科学省研究振興局は磯谷桂介局長が見解を発表することになりました。その中で最も重要な内容は「ILC計画については、日本誘致の表明には至らないが、国内の科学コミュニティの理解・支持を得られるかどうかを含め、正式な学術プロセス(日本学術会議が策定するマスタープラン等)で議論することが必要であると考えます」でした。熱心な推進側に配慮してか表現が軟らかくなっていますが、ここで報ずべき核心的な情報は、「日本誘致の表明には至らない」です。
その背景として4つの懸念(①諸分野の学術コミュニティとの対話不足、②成果が経費に見合うか、③技術的課題の克服、④実験施設の巨大化を前提とする研究スタイルの持続性)を指摘しており、財源さえ確保すれば誘致は実現するとは言っておりません。
 さらに重要なのは、今後、もし推進を希望するなら、日本学術会議で行うマスタープラン等の「正式な学術プロセス」で行うよう推進側に求めている点です。これは日本学術会議での審査を経ない学術研究プロジェクトは、政府として認められるものではないということを意味しています。この見解は当然のことと思います。
 しかしながら貴社は、学術会議が問題点を種々指摘し「支持するに至らない」としたILC計画案を、あたかも問題点は金額と技術だけで、政府が決断すれば誘致が実現できるかのような報道を産経新聞と一緒に行いました。ほぼ誤報に近い恣意的な報道と言えますが、その自責の念からか、あるいは誤報道との批判を逃れるためでしょうか、磯谷局長と記者団との質疑応答分を掲載したのは産経新聞と貴社のみでした。
 たしかに、そのやりとりを読めば実際には「ノー回答」であったことは、この問題に熟知した読者であれば読み取れます。しかし一般の読者がそれを読み取るのは無理でしょう。このような報道姿勢は、他の全国紙の記者たちからは笑いものになっています。恐らく現場の岩手日報記者たちもいたたまれない境地になっているのではないでしょうか。岩手県庁や推進側の中核に対する迎合ばかりで、県民を向いていない報道は、やがて多くの読者に気づかれ、今後、事態(ILC誘致の事実上の断念)が県民全体に伝わったところで、多くの苦情が寄せられることになるでしょう。
 どうも岩手日報の報道関係に何かが起きているのではと感じてしまいます。今のようなILC誘致をあおる報道は終わりにし、普通の県民の声を取りあげる新聞に戻る時機を考えていただきたいと思います。そのための協力を私たちは惜しまないつもりです。

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