【ILC】連載「ILCの実像」 読売新聞 岩手・地域版の渾身の報道・その3

読売新聞 2020年10月5日(月曜日)27面・地域「岩手」
◆◆◆連載 ILCの実像◆◆◆
 文部科学省は9月30曰に発表した「基本構想ロードマップ」に国際リニアコライダー(ILC)計画を盛り込まず、県などが目指す北上高地地下への誘致は、早期の実現が難しくなった。地元が長年にわたって誘致活動を続けているにもかかわらず、状況がなかなか進展しないのはなぜか。ILC計画を多面的、客観的に検証し、今後の道筋を考える。

【ILCの実像 (3)】「地域振興 シビアな目」
 「ILCと共に歩むまち」「旱期実現!! 私達も応援します」
 奥州市内を車で走ると、こうしたスローガンが記された巨大看板を目にする。
 国際リニアコライダー(ILC)ができれば、国内外の研究者が集まる国際研究都市が県内に形成され、技術革新も進むーーー。岩手県南の自治体が誘致に力を入れる根拠だ。ILCを核とした地域経済の回復を思い描く。
 熱視線の背景には、東日本大震災後の復興需要の先細りがある。県内建設業者の多くは震災後、沿岸部の防潮堤や道路工事などの公共事業を手掛けてきたが、県によると、県内の建設投資額は2015年度の1兆3466億円をピークに減少に転じている。
 こうした中、岩手県ILC推進協議会(盛岡市)は、建設からの20年間で見込める国内の経済波及効果を5兆7200億円とはじき出した。「ILCを日本に立地すれば、わが国で初めての大規模国際プロジェクトとなる。しかも一過性のイベントではなく、長期間稼働する施設となる」。そう強調するのは、高エネルギー加速器研究機構の吉岡正和名誉教授(74)だ。
 加速器は最先端の技術が凝縮される。構成する部品は多岐にわたり、優れた技術力が県内に蓄えられる可能性がある。
 「グリーンILC」と銘打ち、ILCで出た排熱を利用して温浴施設や農業施設を運営する民間主導の構想もある。ILCは岩手県内で、活性化に向けた活路の一つに位置づけられている。
 ただ、思い描いた通りには進まないのが世の常だ。
 ILCのような巨額の投資を伴う「巨大科学 ※」をめぐっては、科学者が実験装置の早期建設を目指すため、かつて政財界や国民に経済的な恩恵を誇張してきた面もある。政策研究大学院大の有本建男客員教授(72)は「財政に余裕があった時代とは違う。『ILCができれば地域
振興につながる』という単純なものではない」とくぎを刺す。
 産業界は、基礎研究の側面が強いILCのような研究より、実用化が期待できる研究に関心を寄せる傾向がある。仙台市に今年着工し、2023年度の完成を予定する「次世代放射光施設」も、その一つだ。
 1997年に供用が始まった放射光施設「スプリング8(エイト)」(兵庫県佐用町)は、新型コロナウイルス関連の創薬研究に活用されているが、仙台の施設ではスプリング8より100倍明るい光で分析できる。配分される予算額を比較すると、政府も、ILCより次世代放射光施設の実現に注力していると言わざるを得ない。
 ILCの誘致活動が「経済効果の試算」にとどまっているうちに時間は流れ、地域振興とは逆の皮肉な現象も現れ始めている。
 大船渡港(大船渡市)の一角にある岩手県有の「永浜・山口地区工業用地」 (5.3ヘクタール)は、ILCの建設が決まった場合、岩手県が建築資材や研究機器を受け入れるための「陸揚げ拠点」にする計画を立てる。震災後、ここに民間企業がバイオマス発電所を造る計画もあったが、県は2017年に分譲を中止した。岩手県港湾課は「誘致が実現するまでは分譲中止を続ける」と説明する。
 それは、当分の間はこの土地が「塩漬け」になることを意味する。用地の近くに住む男性(75)は「いつまでも更地のままではもったいない」と話す。
 ILC計画が進まないのは、青写真が良くないからではない。ましてや、誘致に携わる関係者の熱意が足りないからでもない。「『そもそも』のところで高い「ハードルを抱えているから」とはいえるかもしれない。

※巨大科学とは?
 複数の研究機関が共同で大規模な装置を開発・利用する場合に研究者らが使う言葉。「ビッグサイエンス」とも呼ぶ。素粒子や核融合、天文、宇宙などの分野で登場することが多く、最近はゲノム研究などの生命科学も含まれることがある。対象物が小さかったり遠かったりするほど、検出や観測には巨大システムが必要となる。
讀賣新聞20201005ILCの実像③.jpg

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